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第3話 またここへ来てもいいかな

思わず咎めるようにテーブルの向こうのチェイス室長を見たら、向こうも俺をガン見してて目が合った。 その瞬間ぴたりと魔力の侵攻は止まったものの、銀縁眼鏡の奥の深い緑の瞳が綺麗すぎてつい見惚れてしまったら、それを察したらしい不埒な魔力がまたおずおずと動き出す。そして躊躇うように袖のあたりを何度か行き来した挙句、結局はするんと袖の中に入ってきた。 ぴくん、と体が動いてしまったのは仕方がないことだと思う。 肘より奥に魔力が進むことはなかったけど、腕の表面でわずかに蠢きながら居座る魔力が徐々に熱を帯びてきたような感じがしてちょっと恥ずかしくなってきた俺は、それを振り払うように席を立った。 「なんかつまみでも作りますよ」 「……いや、明日も早いんだった。名残惜しいけれど、そろそろお暇するよ」 ハッとしたように立ち上がったチェイス室長は、なんでだか少し照れたような顔で俺を見おろす。 「ミジェ」 「なんすか?」 やっぱり立つとでかいよなぁ。まぁ顔が優しげだから威圧感は少ないけど、なんてどうでもいい事を考えて俺は気恥ずかしさを紛らわせた。手を触られたくらいで乙女のように過剰に反応したと認めてしまうのはなんとなく嫌だったからだ。 「またここへ来てもいいかな」 「そりゃまぁ、来週には依頼分の魔道具が出来ますんで。なんなら俺が王宮に届けてもいいっすけど」 「はは、そうか。そうだね。来週また、お邪魔するよ」 笑って帰っていく後ろ姿を扉に寄っかかったまま見送りながら、俺は知らずため息をつく。強がってはみたものの、やっぱり結構緊張していたらしい。 それからもチェイス室長は、魔道具の依頼だの修理だの魔術の簡略化の相談だのと称して、結局は毎週みたいに俺の工房に訪れていた。 毎回持ってきてくれる飯や酒はそこら辺で買える気取らないもんばっかりだったけど、どれもハズレなしに美味い。食の趣味が合うのは単純に楽しくなっていいよな。 それだけ頻繁に来てりゃ色々と話も聞けるわけで、俺はちょっとずつチェイス室長のことについて詳しくなっていった。 といっても大半は噂で俺でも知ってるってことと大差ない。 年は二十八、俺とは十近くも離れてるのかと思ったけど、冷静に考えりゃその年で王宮魔術室のトップってめっちゃすごい。素直に尊敬するわ。 魔術が趣味みたいなもんで、休みでもつい魔術のことを考えちゃうんだとか、料理や洗濯みたいな家事は苦手だけど、他人が家に入るのが苦手だから家政婦さんを雇うのはイヤなんだとか。 そういわれれば、頼まれる魔道具は家事を代行するようなものが多い。王宮魔術室長様でも、苦手なものはあるらしい。

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