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第5話 これは無理だ

「ミジェ?」 慌てたようなチェイス室長の声が聞こえた途端、俺の頬に触れていた魔力も、俺の舌先で蠢いて今まさに絡められようとしていた魔力も、一瞬で消え去った。 「体調が悪い? 大丈夫かい?」 「……!」 心配そうに俺の背中に添えられた手には、当然ながらいつもチェイス室長が纏っている魔力があるわけで、それを敏感に感じ取った俺は、羞恥に身を震わせる。 だって、チェイス室長の意外とあったかい手から、直接濃厚な魔力が流れ込んでくるんだよ……! 日ごろこの魔力にそこそこ触られてるって意識があるのに、直でチェイス室長の手の感触を感じて、その上濃厚な魔力に触れたりしたら……! 「大丈夫だから……! 触らないで、ちょっと放っといて……!」 近くにあった本でなんとかチェイス室長の手を押し返してガードしたら、チェイス室長が心配百パーセントの顔でおろおろしてるのが見えた。 「いや、でも、ホントに大丈夫?」 「大丈夫なんで、マジで放っといて!」 「でも……あっ、回復魔法かけようか? いや食あたりとかだったら解毒がいいのかな」 「そーいうんじゃないんで! マジ大丈夫っす」 食あたりなわけないだろ!  でも真面目に心配してくれてるらしいのはめちゃくちゃ分かる。なんせ直に触るなと言われたせいで、お馴染みの魔力が労わるようにさすさすと俺の背中をさすっているのだ。 さすがにこの触り方にエロさはない筈だが、既に恥ずかしいスイッチがフルスロットルで入り切っている俺には、労りの魔力ですら気持ちよさを感じてしまって恥ずかしい。 いい人なのかエロい人なのかハッキリしてくれ……! 心配しすぎて帰りたがらないチェイス室長をなんとか本を盾にして玄関から押し出した俺は、扉を背にそのまま床へへたり込んだ。 これはヤバい。 すっかり昂ってしまった体に、「落ち着け」と何度もいいきかせる。このままヌいたりしたら、恥ずかしすぎて今後一切チェイス室長の顔が見られなくなってしまう。平気な顔して会うなんて絶対に無理だ。 心配そうな顔で扉から押し出されていったチェイス室長の顔を思い出して、俺はそれをかき消すようにブルブルと首を振った。 アホか。思い出したらヤバいんだっつーの。 そもそも俺がチェイス室長の魔力に触られてると分かっていても、嫌悪感を抱かなかったのにはワケがある。 それは、チェイス室長の魔力がただただ心地よかったからだ。 イラついている人や悪意がある人の魔力はトゲトゲしい。妬み深い人や他人を貶めるのが好きな人の魔力は触るだけでモヤっと嫌な気持ちになるし、酷い時には吐き気がする時だってある。

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