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第7話 千載一遇のチャンス
それに比べてオレなんか、ギリギリ個人でやっていけてる程度の魔道具士で、これといった取り柄もない。
年だって十近くも離れてる。チェイス室長にしてみれば、やせっぽちの頼りないガキが一人で頑張ってるしなぁ、くらいの優しさでよく食いモン持ってきてくれてるだけなのかもしれないじゃないか。
それに何より、オレは男だし、な……。
今どき恋人が男だろうが女だろうが特に問題もないけど、これまで話した感じじゃチェイス室長が過去付き合ってたのはみんな女の人っぽかったし。
今日みたいにオレに触ってくるのだって、多分酒が入るとなんとなくエロい気分になって、バールで女の子にセクハラしちゃうみたいなことなんだろう。そんな残念なヤツなんだ、きっと。
だから、好きになっちゃダメだ。
***
あの日せっかくそうやって自分に言い聞かせたっていうのに、オレの気も知らず相変わらずチェイス室長は頻繁に俺の工房にやってくる。
しかもさらに困ったことに、回を追うごとに猫をモフるような触り方は鳴りを潜め、いきなりエロい触り方をしてくることが増えてきた。
認めたくないけど、すっかりチェイス室長を意識するようになってしまったオレにとって、この状況は厳し過ぎるんだよマジで。
めっちゃ困る。もう耐えられない。
でもチェイス室長の個人依頼がなくなると経済的に詰むし、なにより……やっぱり、会えなくなるのはそれはそれで辛いんだよな。この前なんか祭りの警備の関係で、とか言って二週間くらい来なかった時があったけど、理由だって分かってるのに無性に寂しかった。
いや、オレは別にチェイス室長に惚れてるわけじゃない。
工房で魔道具を黙々と作ってたから人恋しくなっただけだ、多分!
顔は見たいけど触られるとヤバいだけだ、色んな意味で。なんとかチェイス室長の魔力セクハラだけやめさせる手はないものか……。悩むオレに千載一遇のチャンスが訪れた。
何気なく発されたこの言葉。
「ミジェは魔力も豊富だよね。魔術師でも充分活躍できそうだけど、魔道具士を目指したのは、やっぱりモノを作るのが好きなのかな」
細工が丁寧だしね、なんて笑ってくれるのは素直に嬉しい。そしてモノを作るのが好きなのは本当だ。でもオレにはそれ以上に切実な理由があるんだ。
「もちろんモノを作るのが好きってのは大きいんすけど」
「他にも何かあるのかい?」
「オレ、魔力を体で感じるタイプなんで、魔術師が多いところはキツくて」
「? どういうこと?」
興味深そうだった眼鏡の奥の瞳が、単純に疑問の色を宿した。
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