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第10話 こんなひと時が楽しいんだ

「へぇ、聞いたことないっす」 「だろう? 城で少しだけ試飲したんだけど、濃厚で甘いのに口当たりがとても良い果実酒なんだ。色がまた良くてね」 「うっわ、めっちゃ楽しみ!とにかく入ってください 」 チェイス室長がそこまで言う酒ってのも興味があるし、放っといたら酒飲む前にいいとこ全部言っちゃいそうな勢いだから、とりあえず飲みながら話を聞こうと招き入れた。 よく見るとチェイス室長は円筒形のポットまでぶら下げていて、オレの視線に気づいたのか開けて中身を見せてくれる。 「ちゃんと食べる物も買ってきたんだった。さっき買ったばかりだからまだ温かいね」 「至れり尽くせり……!」 しかもコレ、オレが大好きなごろごろ野菜のポトフだ! この店のはホロリと口の中でとろけるくらいに煮込んであって、噛まなくても舌で潰すだけでなくなっちゃうくらいに柔らかいんだ。疲れてる時にはこれがべらぼうに美味い。 「良かった、嬉しそうだね。この前買ってきた時、美味しそうに食べてたから」 「大好きっす!」 「そ、そうか……!」 チェイス室長がこっちまで幸せになるような笑顔を浮かべるから、ますます楽しくなってくる。 大皿を無骨な木のテーブルのど真ん中にドンと置くと、チェイス室長が買ってきたポトフを注ぎ込んでくれて、ふわぁ……っとあったかそうな湯気が立ち昇った。それだけでもうめちゃくちゃに美味しそうだ。 酒とポトフがあるから他は手抜きでオーケーだ。あとはパンと肉だな。 いそいそとキッチンに向かい、肉とパンを切り分ける。あとはオレの自慢の魔道具に放り込むだけ……と思ったら、チェイス室長がキッチンにひょこっと顔を出した。 「焼けばいいんだろう? 手伝うよ」 「ありがたいっす」 この人かなり偉い人の筈なのに、こうやって何でも手伝ってくれるんだよな。やっぱ基本的にいい人なんだろうなぁ。肉とパンを渡したら、慣れた手つきで魔道具を操作してくれる。 現在オレの家で大活躍している魔道具は、実はチェイス室長に頼まれて作ったものだ。家事が面倒だというこの人のために、パン焼き機と肉をジューシーに焼く魔道具を開発した時に、研究段階で作った試作品だったりする。 基本的な構造が同じだから、もちろんチェイス室長もなんなく使えてしまうのだ。 オレが皿を並べて洗って切っただけのサラダをのせる数分で、肉とパンも美味しそうに焼きあがって香ばしい匂いが漂ってくる。最高に美味そう。 これに美味しい酒が加わるだなんて、なんて贅沢な食卓だろう。 チェイス室長と過ごすこんななんでもないひと時が、不思議と楽しいんだよなぁ。

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