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第20話 【チェイス視点】自分への信用は地に落ちた
「ひぁ……っ、ま、待って」
明らかにさっきよりも声が切羽詰まっている。私が彼を高めているのだと思うと嬉しかった。
「ああっ……ん、ダ、ダメ……っ!」
想像上の彼の可愛い竿を丁寧に愛撫していく。触り方を変える度、声が漏れる。その高低でミジェの弱いところが分かるような気がした。ああ、いっそ感触があればとすら思う。
「うぁ……いや……ぁ、てめぇ、どこ触ってるんだよぉ……っ」
どこって……胸の小さな粒も愛撫した方がいいだろうか。ミジェ自身の先端を責めながら胸の突起を口に含む様を想像したら、ドアの向こうでヒュっと息をのむ音が聞こえた。
「違っ……あっん……ふっ……くっ」
触れれば触れるほどにあがる甘い喘ぎ声。私は夢中になって愛撫した。どれほどの時間そうしていたのか。
「……あっ、あ、ぁあっ!」
やがて聞こえるミジェの感極まった声。荒い息遣い。聞き取れるギリギリの「なんなんだよ、もう……っ」という、小さな声。
「ひでーよ、あんた……」
悲しげな声が聞こえるが。
「えっ!? あっ、ちょっ……嘘!??」
そう簡単にはやめられなかった。
***
「申し訳ありませんでした!!!」
全力で土下座する。
「国一番の魔術師が簡単に土下座すんなよ……」
呆れたような声が降ってくるが、簡単ではない。人生初の土下座だ。
そもそも土下座で済まされるものではない。というか、もはや私がここにいるだけでミジェは怖いのではないだろうか。私が彼の個人顧客であり、かつ魔術室の決裁者だから、ミジェは強く言えないに違いない。
ミジェと過ごした楽しかった時間が、走馬灯のように私の脳裏を過ぎていく。
魔術や魔道具の専門的な話から、どこの店の唐揚げが美味い、なんていうちょっとした雑談まで、ミジェと話しているとまったく飽きない。
こちらがハッとするような視点で物を見ているのも面白かったし、恥ずかしがり屋な彼がはにかんだ笑顔を頻繁に見せてくれるようになったのも嬉しかった。
通常は慣れない敬語でぽそぽそと話すのに、酒がまわってくると話し方もぞんざいになって、なんでも遠慮なくずばずば言ってくれるのが新鮮で楽しかった。
もうあんな時間は持てないだろう。いや、私が楽しかっただけで、ミジェは度重なる私の痴漢行為に辱められ、怯えていたのだ。
自分が一切信用できないことは今回の件でよくよく理解した。
ミジェに酷いことをしたいわけではない。だが、彼を可愛いと……彼に触れたいと思う気持ちはきっと消えないし、抑えることもできないだろう。
そして情けないことに、自分の魔力が彼に不埒な真似をしないよう、完全にコントロールするすべも思い当たらない。
私はもうこの工房に足を踏み入れてはいけない人間なのだ。
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