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第21話 ふざけんなよ? てめぇ

「本当に申し訳なかった」 何回謝るんだよ。聞き飽きたっつーの。 やっと土下座をやめたと思ったら、チェイス室長は二言目にはこうして詫びの言葉を挟んでくる。椅子をすすめても座ろうともしないし、なんなんだよいったい。 謝るくらいなら最初からあんなエロいことしないで欲しい。こっちは人生初ってくらい恥ずかしい声出しちゃったし、それをばっちり聞かれちゃってるんだ。絶対にオレの方が気まずいっつうのに、チェイス室長があまりにも謝り倒すもんだから、段々面倒くさくなってきた。 自分の魔力が俺を触ってるんだってわかって、自制してくれればそれでいいってさっきから言ってるのに。今日みたいなのは困るけど、酒さえ入らなきゃ多分大丈夫だと思うんだよ。 「だから、さっきからもういいって言ってるじゃんか。これからできるだけ気をつけてくれれば」 「気を付けると言っても……残念ながら自制心より煩悩が圧勝するのは実証済みだからね」 チェイス室長は眉を下げて自嘲気味に笑う。ぶっちゃけそこは否定しない。さっきは散々喘がされたからな。 「……私はもう、ここに来るべきではないと判断した」 「えっ」 「心配しなくていい。個人依頼も魔術室の依頼もこれまで通り継続すると約束するよ。これからは魔術室のメンバーに足を運んでもらうように手配する」 「もう、あんたは来ないの? あんなに頻繁に来てたのに?」 「君に酷いことをしない自信がないんだ。そもそも年甲斐もなく君に恋情を抱いて、君の顔見たさに通っていた私の浅薄さが間違いのもとだった。もうこの工房には足を踏み入れないと約束する」 「はあ?」 自分の声が刺々しくなるのが分かるけど、抑えられない。何言ってるんだコイツは。 「私がここにいるのも不快だろう。君にまた酷いことをしないうちに、私はもう帰るよ」 「で? とっとと帰って二度と顔も見せませんって? ふざけんなよ? てめぇ」 地を這うような声が出た。 びっくりしたらしいチェイス室長が思わず、といった様子で顔を上げて、ようやく目が合った。……と思ったらすぐにうつむいてしまう。 大の大人がうじうじと。むかつくんだよこの野郎。 「目ぇ逸らすなよ。まだ話は終わってねえだろ、いいからそこの椅子に座れ」 「しかし」 「座れってんだ」 俺の剣幕に気圧されたのか、チェイス室長はおずおずと椅子に腰かける。めちゃくちゃ浅く座ってるのが、未だに帰る気満々っぽくて余計に癪に障るんだけど。 「気まずいからって逃げてんじゃねえよ。オレはあんたが不快だとも、二度と来るなとも言ってねえだろ。勝手に自己完結してとんずらするのは卑怯だと思うんだけど」

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