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第26話 訪ねて来たのは

しかしそこは悲しい個人経営の魔道具士。魔道具が壊れたのかもと思うと放置できない。 オレはしぶしぶドアを開けて、次の瞬間、驚きで飛び上がった。 「チェイス室長!?」 「昨日はすまなかった、来ると約束していたのに」 「そんなの……! オレの方こそ謝らなきゃと思ってて……あの、とりあえず入って」 「いや、まだ仕事があって。実は休憩だと言って抜け出してきたんだよ」 「まだ仕事あるんすか!?」 日なんかすでにとっぷりと暮れて、チェイス室長はドアの外、夜の闇の中に立っている。一般家庭ではとっくに布団に入ってる時間で、周囲の家々も灯を落としてしまっているのだ。 「だからこれだけ届けに来た」 チェイス室長が差し出したのは、小ぶりなバスケットに入った色鮮やかな果実たち。 「この前プルムアの実が好きだと言っていただろう? 祭りの準備の一環で果実を扱う商人とも話す機会があってね、取り寄せることができたから本当は昨日渡そうと思っていたんだ」 「ええ!!!? いいんすか!? これ、めっちゃ珍しいのに!」 オレが育った南方の国ではさして珍しくもない果物だったけど、運搬が難しいのかこの国では滅多に見かけることがない。たまに見かけてもバカ高いかプルムアの中でも外皮が硬くて果汁が少ないタイプのヤツだった。でもこれは、オレが好きな果汁たっぷりのレアという種類だ。 「すげぇ! 美味そう!」 喜ぶオレの髪に、ふわりと優しい魔力が触った気がして目を上げると、チェイス室長が目を細めてオレを嬉しそうに見おろしていた。 「ありがとうございます! すぐに剥くんで一緒に……」 「いや、もう戻らなければ」 「え、もう? まさかほんとうにこれを届けるためだけに来たんすか!?」 「言葉が戻ってるね」 「え? 言葉……? ああ、いやオレ、この前あんたとか言っちゃってさすがに失礼だったと思って……申し訳なかったっす」 「それだけのことをしたからね。できればこの前みたいに素の言葉で話してくれないか? その方が嬉しい」 「それなら、じゃあ。敬語苦手だから助かるけど……」 「ではこれからは敬語はナシで。また来るよ」 「あっ、待って!」 本当に急いでいる様子で踵を返すチェイス室長を、オレは慌てて呼び止めた。 「これ! ライールがチェイス室長がものすごく無理してて、あんま寝てないって聞いたから……」 「これは、魔道具?」 オレはコクコクと頷いた。 「ちょっとでもチェイス室長が癒される物を作れないかって思って、昨日、大急ぎで作ったんだ」 「まさか私のために?」 チェイス室長が目を見開く。オレはコクコクと頷いた。改めてそう聞かれるとなんか恥ずかしいんだけど。

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