27 / 46
第27話 肌身離さず大切にするよ
「そのポッチを押してみて」
「……これは」
チェイス室長が目を見張る。そして不思議そうに自分の手や体を見て首を傾げた。
「暖かい。それに、疲れが抜けていくような……これは、疲労回復?」
「そう。いい香りもするでしょ?」
「ああ、安らげる、好きな香りだ」
「良かった! これ、疲労回復魔術が組み込んであるんだ。で、副次効果で癒し効果のあるハーブの香りと温熱効果が全身を包んでくれる仕様」
「凄いな! 魔力の消費が全くない」
「小さいから椅子でもベッドでもどこでも使えるし、仮眠とか休憩の時に使えないかなと思って。それ、貰ってくれると嬉しい」
「ありがとう……! ミジェだと思って肌身離さず大切にするよ」
チェイス室長があまりにも嬉しそうに笑うから、嬉しくてちょっと照れくさい。そして、オレと思ってそこまで大事にするなんて言われたら、皆で使ってとは言いにくくなってしまった。
魔術室の皆さんには、別のやつを開発しよう……と密かに誓う。
「あ、あのさ、オレ」
「ん? ……あ、ちょっと待ってくれる?」
急に怪訝な顔をしたチェイス室長が、右手の人差し指にはめられた指輪を凝視する。
「呼び出しだ、誰か困っているらしい」
「ああ……」
オレが作った小さな小さな魔道具。登録した人が魔力を込めて念じれば、遠く離れた所にいても振動で伝えてくれるというそこそこ便利なものだ。こんな風に役に立ってるのを見るのは嬉しい。
でも、同時にオレの勝手な都合でこれ以上チェイス室長を引き止めることはできないのも思い知らされる。本当は「オレも好きだ」って言ってしまいたかったけど、チェイス室長は本当はこんなとこに来てる場合じゃないくらい忙しいんだ。
「引き留めてごめん。皆が待ってるんだろ、行ってあげて」
「すまない、また会いに来る」
チェイス室長が寂しそうにそう言ってくれるのが嬉しい。暖かい魔力が一瞬だけオレを包んですぐに消えたから思わず見上げたら、チェイス室長は凄く切なそうな表情をしていた。
「じゃあ」
「あっ……チェイス室長!」
そのまま離れて行く後ろ姿に、オレは慌てて叫ぶ。
「もう魔力のコントロールとかいいから祭の準備に専念して! ちゃんと寝てくれよ!」
振り返ったチェイス室長は笑って手を振ってくれるけど、何も答えてはくれなかった。ちゃんと体を労わってくれるのかがやっぱり心配になってしまう。
魔術室の皆用の魔道具が出来たら、届けるついでにちょっとだけチェイス室長の様子を聞いてみようか。そうしたらきっと安心できる。
チェイス室長の姿が見えなくなるまで見送って、家に入り改めてベッドにダイブしたオレは、どんな魔道具を作ろうか考えながら眠りに落ちた。
ともだちにシェアしよう!