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第28話 室長としての顔
四日後の昼過ぎ、オレはようやく作り上げた耳栓二十個を手に魔術室を訪れていた。
ちょっと日があいてしまったのは、作る数が多かったのと他の注文をこなしていたってのもある。
耳栓なんて言うけれど、もちろんただの耳栓じゃない。立派な魔道具だ。あの日一晩ゆっくり寝て、朝風呂に入ってたら思いついた。
オレが魔道具製作の時に集中したいように、魔術師の人たちだって集中したい時があるに違いない。音を遮断するというのは集中するのにあたってかなり有効だ。
でも人により、もしくは時と場合によって、音の遮断具合って変えたい時も多い。
この耳栓なら、周囲の音の遮断具合を10段階で変えられる。0なら完全遮断、1から順に徐々に周囲の音が聞こえるようになり、6で通常音量、そこからはむしろ集音機能になって10で2倍になる。
業務に支障をきたすと困るから、一応1以上は名前を呼ばれたら音量が普通に戻る仕様にしたけど、実際どっちが便利かは使ってみないと分からない。使い心地を確認しながら調整していこうと思ってるんだ。
「こんにちは、えっと……」
「ああ、魔道具士の。どうぞ」
受付に顔を出したら、約束もないのにすんなり通れた。時々魔道具の点検や修理で訪れるから、顔を覚えていてくれたんだろう。
チェイス室長たちがいるのは、王宮魔術師たちが集う魔術師塔の中でも上階、四階だ。そこから上は魔術開発のための広い訓練場だの実験場だの、はたまた一般人には公開されていない怪しげな施設があると言う。怖い。
四階に登って開けっ放しの入り口から中を覗いてみると、中にはキビキビと立ち働く魔術師たちがいた。
いつもは割と席についたまま、新しい魔術の開発だとか現存する魔術の効率化だとか、各々の担当案件に没頭していたり、チームで研究している魔術について意見を交わしたりしていることが多い。
ところが今日はみんな結構右往左往して、全体的にあわただしい印象だ。
そして、部屋の一番奥にあるチェイス室長の席を見ると、一番忙しそうな人がいた。
入れ替わり立ち代わり誰かが報告が来て、それに手短かに指示を出すとまた次が来る。オレは感心した。よくあれだけ次から次に話しかけられて、穏やかに返せるなぁ。オレなら「ちょっとでいいから放っといて」って言っちゃいそう。
チェイス室長は微笑すら浮かべながら、そのひとつひとつに受け答えしている。
しかもわずかに人が途切れた間には、手元の資料だか何だかに難しい顔で見入っては何かさらさらと書き込んでいて、一瞬たりとも隙が無い。
うわぁ、チェイス室長って、仕事中はあんななんだ。
てきぱきと仕事をこなしていく様はかっこよくもあったけど、近寄りがたくもあった。
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