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第30話 なぜ呼んでくれない?
「ミジェ、どうしてここに?」
「あ、えっと、魔術室の皆がめちゃくちゃ忙しいって言ってたから、差し入れに魔道具作って持ってきたんだ。さっきライールに渡したんだけど」
「へえ、どんな?」
「10段階で消音から集音まで調節できる、耳栓型の魔道具。集中できたりするといいかな、と思って」
「それはまたすごいものを開発したんだな、きっと役に立つだろう。ありがとう、ミジェ」
「いや、オレがチェイス室長に無茶なこと言ったせいで、チェイス室長も魔術室の皆も余計に大変になっちゃったみたいだから、なんか代わりに役に立つことしたかったんだ」
「ミジェは優しいな」
フ、と笑った室長はなぜか寂しそうな顔をした。
「……? なんかあったのか?」
「なぜ?」
「なんか落ち込んでる感じするから」
そう伝えたら、チェイス室長は赤くなったあと、「情けない」と呟いて、自分の目を覆ったまま天を仰いだ。
「……いや、単純に寂しかっただけだ。ミジェはせっかく魔術室を訪ねてくれたというのに、私ではなくライールを呼んだだろう? 大人気なくて申し訳ない」
「あんなに忙しそうなチェイス室長を呼び出す勇気はねえよ。皆の仕事が止まったらオレ、来た意味ないじゃん。むしろ邪魔になっちゃうし」
「そこは気にしないでくれ。ミジェの顔を見たら私のやる気がアップする。少々の時間話した分などあっという間に取り戻せるから、むしろお釣りが来るくらいだ」
「あ、そう……」
恥ずかしい事言うなぁと思ったけど、あえてそれに触れる方が恥ずかしいから、とりあえず流す。
どんな顔でそんなセリフを吐くんだよ、と思って見上げたらいつもの穏やかな微笑みで拍子抜けしたくらいだ。でも、その顔を見て、オレは「あっ」っと声を上げた。
「顔色いいな! 目の下のクマもだいぶ薄くなってる」
「このところ体調もいいよ。実は睡眠時間などはさほど変わっていないんだけどね、ミジェがくれた魔道具のおかげで眠りの質が上がったのと、手軽に疲労回復できるのが効いているみたいだ」
「ホントに!?」
こんなに顕著に魔道具の効果が確認できると、めちゃくちゃ嬉しい。しかも、チェイス室長が本当に体調が良さそうなのが素直に嬉しかった。
「さっきミジェが迷惑をかけたと心配していたようだけれど、むしろ私の稼働時間が確保できて皆感謝しているくらいだよ。ありがとう、ミジェ」
「おいおい、疲労回復があるからって余計に無茶したりしないでくれよ?」
「気をつけるよ」
穏やかに笑うチェイス室長は、さすがに職場ということもあってか、怪しい魔力どころかオレが大好きな穏やかな魔力ですら触ってこない。
恥ずかしいことに、それが少し寂しいと思ってしまった自分がいた。
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