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第31話 幸せだ

それでもとりあえずは頑張って良かった。 魔道具はすごく喜んで貰えたし、思いがけなくチェイス室長とも会えて元気そうな姿を見ることが出来たのもすごく嬉しい。 それに……それに、チェイス室長は帰り際、緊張した面持ちで「少しだけ抱きしめてもいいだろうか」なんて聞いてきてくれて、オレたちは本当に僅かな時間だけど抱きしめ合う事が出来た。 初めてこんな風に穏やかに抱きしめられて、包んでくれる腕が、胸が、思いの外暖かくてなんだかすごく幸せな気分になる。濃厚な魔力に包まれていると、クラクラするみたいに多幸感が襲ってきて、気を抜くと足の力が抜けてしまいそう。 縋り付くようにチェイス室長の背に腕を回したら、きゅ、とチェイス室長の腕の力が強くなった。 うわ……心臓の音が聞こえる。チェイス室長の魔力が忙しない鼓動の音と共に体の中にまで浸透してくるみたいだ。耳も、体も、頭の中まで、全てが満たされていくみたいなこの感じ……オレ、やっぱりチェイス室長が好きなんだなぁ……。 「幸せだ」 上からそんな声が降ってきて、なんだかジーンとしてしまった。このまま天国みたいな心地よさに浸っていたいのはやまやまだけど、忙しいチェイス室長をいつまでも拘束してもいられない。 「ミジェ、今後もしまた魔術室を訪ねることがあったら、必ず顔を見せてくれよ」 切ない顔でそんな嬉しい事を言ってくれるチェイス室長に別れを告げ、なんだかすごく満ち足りた気持ちになったオレは、その日スキップしたいような気持ちで家に帰った。 祭りが終わったら、チェイス室長とあんな風に幸せな時間を過ごせるのかな。そう思うと気持ちまで晴れやかになる思いだった。 とは言え。 数日経つとやっぱりちょっと寂しくなってくる。 前は魔道具造りに集中してたら一週間過ぎるのなんてあっという間だったのに、今はチェイス室長の顔をずっと見られないのが寂しいと感じるようになってしまった。特にあの、抱きしめられた時に感じた圧倒的な多幸感。あんなのもう、麻薬に近いと思う。 癒しの力が凝縮したみたいな、あのあったかい魔力に触れないとなんだか元気が出ない気がするんだよね。 でも、いよいよ明日は祭りだ。 祭りったって一週間も経てば終わる。祭りが終わったらきっとまた前みたいに美味しいご飯と甘い酒を持って訪ねて来てくれるんだろう。 それまでは寂しくたって我慢しなきゃな。 気を紛らわすかのようにがむしゃらに魔道具を作り続け、疲れきったところで味気ない飯を食って、風呂に入って冷たいベッドにゴソゴソと体を横たえた。 その時だ。 なんか違和感を感じて、オレは一旦閉じた目を開けて、空間を凝視した。

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