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第32話 幸せなような、寂しいような……?
なんか、今、ほっぺたに触った?
自分のほっぺたを触ってみたけど、特に異変はない。暗闇の中でじっと目を凝らしてみても何も見えなくて、オレは仕方なく布団の中で身じろぎしつつ眠気が来るのを待つ。
すると、急にふわっと全身があったかい何かで包まれた。
全身包まれて「ああ」と納得する。だってめちゃくちゃ覚えがある魔力だ。心地いい、チェイス室長の穏やかで癒されるような魔力。
ふわっと包まれてうとうとと微睡みたくなる……
いや!ゆったりしてる場合じゃねーだろ、オレ!
もちろん飛び起きた。だって、この魔力があるって事は、チェイス室長が近くに居るって事だろ!? せっかく来てくれたのにオレが寝てると思って扉の前でがっかりしてるチェイス室長の姿が容易に想像できる。オレは慌てて玄関の扉を押し開けた。
「……あれ?」
誰もいない。
え? そんな事ある?
家の外周を一周してみて、念のために家の中もあちこち見てみたけど、やっぱりチェイス室長はもちろん猫の子一匹居なかった。
玄関の扉を閉めて、布団に戻って……オレは首を傾げた。
だってさっきからずっと、チェイス室長の陽だまりみたいな魔力はオレを優しく包んだままだ。本体が居ないのに魔力だけあるなんて、そんな事今まで一回たりともなかった。
「……チェイス室長?」
呼んでみるけど、当然部屋の中はシーンとしたままで、わりとでっかい独り言を言ったみたいになってしまった。ちょっと恥ずかしい。
仕方なくまた電気を消してモゾモゾと布団に潜り、暗闇の中ぼんやりと考える。もしかして魔力の制御を試行錯誤しているうちに遠隔で魔力を送れるようにでもなったんだろうか。
オレを包み込む魔力に触れてみる。
オレにも魔力が見えたなら、この包み込んでくれている魔力がチェイス室長の姿に見えたのかな。せっかくここに居てくれるなら、姿が見えたり会話できたりしたらもっと楽しいのに。
そう考えてプルプルと頭を振る。
それはさすがに贅沢だ。忙しいチェイス室長をこうしてちょっとだけ感じられるだけでも充分に嬉しい。オレをしっかりと抱きしめて添い寝してくれてるみたいだって思えば、すごくすごく幸せな事なんだし。
チェイス室長の魔力にこっそり頬擦りして目を閉じる。
このまま眠ってしまえば、きっととても幸福な夢を見ることが出来るんじゃないかな。
……そう思ったのに。
眠れない!!!!!
チェイス室長の魔力に抱きしめられてるんだと思えば思うほど、なんだか体が熱くなってくる。あれほどセクハラしてきてたチェイス室長の魔力なのに、今オレを包んでいる魔力はめちゃくちゃお行儀よくオレを労わるようにそこにあるだけだ。
ヌきたいけど、チェイス室長の魔力を纏ったままするのも憚られる。結局オレは、悶々としたまま朝を迎える羽目になってしまった。
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