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第34話 【チェイス視点】天使がいる……!
「うん? なんだ?」
「右! 前方右のアマリスの店の向こう、見てください!」
言われるがまま前方右のアマリスの店の向こうを見てみたら、見慣れたオレンジのふわふわ髪が見える。
あの髪は……ミジェ!!!!
ミジェも一心にこちらを見ていて、すぐに目が合う。するとどうだ。ミジェは嬉しそうに破顔して、控えめに手を振ってくれたではないか。
「可愛い……! 天使がいる……!!」
「どんだけ可愛く見えてんですか!? アイツめっちゃフツメンでしょ? そりゃ褐色肌とかファイアバードの雛みたいなオレンジ髪とか可愛いっちゃ可愛いけ……ど……怖っ!!!!」
思わず漏れた心の声に、すかさずライールがツッコミを入れてくる。ものおじしないのがライールの長所ではあるが、少し私を雑に扱い過ぎではないだろうか。
「その顔ヤバいですよ。え、どっちに怒ってんですか? フツメンって評した方? 褒めた方?」
「どっちもイラッとした」
「ええ、面倒くさ……」
「放っといてくれ。大丈夫、今なら全力で笑える」
せっかくミジェの顔を拝めるんだ、ライールの戯れ言に付き合っている暇はない。私は表情筋を総動員して、満面の笑顔を浮かべた。ミジェに手を振ると、照れ臭そうに、でも嬉しそうに笑って手を振りかえしてくれる。
心に元気の元を注入されている気分だ。
これならパレードが終わるまで、沿道の人々すべてに全力の笑顔を向けられるかも知れない。
***
ミジェにパワーを貰いその日のラスト各国要人との会食も無事に済ませた私は、明日の式典で使われる予定の魔道具と術式の確認のために魔術室に戻っていた。
遅くまで皆最終調整に従事してくれている。体力的にもかなり厳しいだろうが失敗は許されない。私が言わずとも重々承知しているからこそ、皆真剣な面持ちで自分の担当箇所を念入りにチェックしているのだろう。
集中しているところを邪魔しないよう、皆のために用意してもらったケーキをそっと各自の机に置いてから自席に戻った私は、ふと手に触れた魔道具を見て幸せな気持ちになった。
ミジェが私のために作ってくれた、疲労を回復してくれる魔道具だ。
ミジェの手のひらほどの小さなコロンとした見た目のまあるい球体に、足が3つとボタンが付いているだけなのだが、これがなかなかどうして優れもので、疲労回復の魔術を展開してくれるだけではなく、いい香りと暖かさに包まれるというリラックス効果抜群の品なのだ。
思わず口角が緩むのを自覚しながらボタンを押すと、じんわり体が暖かくなって体から疲れが抜けていくのが分かる。やっぱりミジェの魔道具は素晴らしい。
見渡すと皆の耳には耳栓型の魔道具がしっかり嵌っている。皆も重宝しているのだろう。
ひとり悦に入りながら、私はスッキリした頭で明日の式典の護衛用の術式のチェックに入った。人の生死に関わる最も重要な術式だ。私の責任において万全な状態にしておかねばならない。
今夜も先は長そうだが、まだまだ頑張れそうな気がした。
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