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第36話 嬉しい誤算
「その声! まさかミジェ?」
「まさかはこっちのセリフだよ!」
腕に積み上がってる紙袋を取り上げたら、やっとチェイス室長の優しげな顔が見えた。二人で荷物を分けあって持ち俺の工房兼住居に辿り着くと、テーブルにその品々を並べる。
「どうしたんだよ、こんなに。ていうかチェイス室長、こんなとこにいていいのかよ」
「大丈夫、大丈夫。各国の要人も全部帰ったし王宮主催のものは全て終わったからね。王宮魔術室は今日、明日は休みでね」
「そ、そうなんだ」
「随分久しぶりに休みだから、ミジェが好きそうな物を買い込んできたんだ。ほら、これこの前美味しいって言ってた酒と、あとしっかり食事として食べられそうな物もたくさん買って来たから、忙しいならまた夜にでも来るよ。置いていくから食べて」
「いやいや、せっかく来たのに帰らないで! 大丈夫だから」
オレ、自営業で良かった!
「結構このところ早めに仕事進めてたから、一日、二日くらい休んだって問題ないくらいには余裕があるんだ。それよりもチェイス室長こそ、ずっと激務だったじゃん。休んどかなくていいの?」
「それがこのところ夢見が良くて。短時間でも幸せな目覚めでね。意外にも元気なんだよ」
「……」
オレの肩がピクリと動いた。
買ってきてくれた物を皿に盛り付けていた俺の手が止まったのを見て、チェイス室長が不思議そうに俺を見る。その視線を感じて勝手に顔が赤くなっていくのが分かるのに、止める事が出来ない。
は、恥ずかしい……!
「ミジェ?」
「えっと……その、このところさ、チェイス室長さ……その、毎晩来るじゃん?」
「えっ!?」
もじもじしつつ、でも勇気を出して言ったのに、チェイス室長がビックリした顔をするもんだからこっちがビックリしてしまった。
「なんで驚いてんの? ここ四日くらい毎日さ、魔力だけ添い寝に来てたじゃん……?」
「え? え? え? あれは夢ではなく……?」
チェイス室長の顔色は目まぐるしく赤くなったり青くなったり忙しい。
「あれ、意識してやってたんじゃないの?」
「幸せな夢だと、思っていた……!」
「魔力の制御の訓練してるっぽかったし、遠隔で魔力を扱えるようになったのかと思ったんだけど。添い寝っていうか抱きしめてくるだけで……その、色々触ってくるわけでも、なかったし……」
オレの言葉を聞いて、チェイス室長は明らかにホッとした顔をする。自分でも自分の魔力の動きに自信がなかったんだろう。
「良かった……いや、勝手に魔力だけ訪問して抱きついている時点でアウトだ……!」
チェイス室長が分かりやすく崩れ落ちた。
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