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第39話 ちゃんと言いたかったんだ

「えっ」 ポロッとチェイス室長の手からフォークが落ちる。カラン、カラン、と音を立てて床に落ちるのに、チェイス室長はオレの顔を呆然と見たっきりピクリとも動かない。 「もう分かってたかも知れないけどさ、オレ、ちゃんと言っておきたかったんだ」 ちょっとだけ笑って見せたけど、内心の緊張はこれっぽっちもほぐれなかった。無性に喉が乾いて、オレは一気にグラスに半分くらい残っていたルルシュを飲み干す。かぁっと体の中が熱くなった。 さっきはポロッと言っちゃったけど、もう一回、チェイス室長の目を見てちゃんと伝えないと。 「聞こえたよね? オレ、チェイス室長が好きだ」 「ほ……本当に!!!!????」 チェイス室長が、勢いよく立ち上がる。勢い余って椅子がガツーン!! と結構な音を立てて倒れた。 「なんで驚くのさ。もう分かってると思ってたのに」 チェイス室長があんまり大袈裟に驚くから、なんだか可笑しくなって肩の力がフッと抜けた。チェイス室長は泣き笑いみたいな、不思議な顔でオレをじっと見つめている。目の縁が赤い。 「だが……あんなに不埒な事をしてしまっては、嫌われても仕方がないと思っていた」 「好きじゃなかったら、あんなにエロいことされてまた来いなんて言わないよ。ホントに恥ずかしかったんだからな」 「す、すまない……」 「それでも、好きなんだからもうしょうがないじゃん。オレさ、多分チェイス室長が思うよりずっと、チェイス室長のこと、好きだと思うよ」 「ミジェ……」 チェイス室長、男泣き。 こんなにハッキリ好きだって言ってるのに、チェイス室長は棒立ちのまま泣いていて、オレに触れようともしない。よっぽどこの前の件を反省してるんだなぁと思ったら、可笑しいような可哀想なような気持ちになる。 オレは席を立ってタオルを持ってくると、チェイス室長の銀縁眼鏡をそっと外して顔を拭いてやった。 「あーあー、もう。泣かないでよ」 「ミジェ……」 至近距離で見上げたら、いつもは眼鏡の奥にある深い緑の瞳が直で見えて、ちょっとドキッとした。涙で濡れてるからか、いつもよりさらに綺麗な気がする。 纏っている魔力とおんなじ、優しい顔。 オレを目の前にして動く事も出来なくなってるチェイス室長に、オレは自分からぎゅっと抱きついた。 「……?」 なんだかいつもとは違う魔力……? 陽だまりみたいにのどかな、猫でも愛でるような優しい魔力じゃない。でも、ちょいちょいオレを悩ませてたエロさ全開魔力でもない。 ただただ熱い、燃えるような……それでいて小さく震えるような、繊細なのに情熱的な魔力だった。

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