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18章(14)
さらに、潤がびっくりする提案をした。
「尚紀さん、もう僕に『先輩』って付けるのやめない?」
え、なんでそんなことを? と尚紀は戸惑う。
「潤、でいいよ」
と言うのだ。
そんなことを言われても……と尚紀は慌てて、戸惑うばかり。自分はなにか失礼をしただろうか、だからそんな無茶ぶりを言われているのだろうかと思ったりもしたが、潤はただ穏やかに苦笑している。
どうやら本気で善意らしい。
ほらほら、呼んでごらん、という雰囲気。いきなり呼び捨ては、とてもハードルが高いのだが……。
「潤……さん?」
思わず「さん」をつける。それに潤もひっかかったようだ。
「さん? つける?」
嫌そうではない、ひたすら楽しそうな様子なので、尚紀は何度も大きく頷いた。
「だって会社の社長さんですし、年上ですから……」
そう主張する。遠慮しているわけではないのだが、自分にはしっくりこない。尚紀にとって、どうしたって呼び捨てにはできない相手なのだと思う。
「僕の秘書なんてプライベートでは呼び捨てだけどね」
尚紀は内心でホッとした。
廉と同じように呼べと言われても無理な話だ。そんなの図々しすぎる!
それでも「潤さん」で満足してくれた様子。
「じゃあ、僕も。『さん』はやめて、尚紀って呼んでください」
尚紀もせがむようにそう提案する。言い出しっぺのくせに、潤はその提案に驚いている様子。
「え、僕はいきなり呼び捨てなの? ハードル高くない?」
しかし、呼ばれる方の尚紀には全く抵抗がない。むしろそう呼んでもらえると距離が縮まった感じがして嬉しいとさえ思う。
もしかして、潤もそういう気持ちで言ってくれたのかも、と尚紀は気がついた。
「潤さんはお兄さんみたいだから」というと、潤は嬉しそうに「尚紀」と呼んでくれた。
尚紀も嬉しくなって「はい」と、返事した。
「僕も弟が欲しかった。嬉しいよ」
それは尚紀とて同じ。
この心細い時にわざわざ来てくれて、温かくて気持ちのこもったミルクティを振舞ってくれて、心配してくれて、大事な友人のように接してくれる。
それがどれだけ嬉しくて、励みになって、救いになっているか。
こんなふうに誰かの心を自然に支えられる人になりたい。
もし、ペア・ボンド療法が失敗したとしても……と尚紀は考えてから立ち止まり、思考を改める。
いや、そんなことはもう考えない。
潤のように自分を信じて、廉を信じる。
自分が今できることはそれだけ。
そして、今日もらった優しさを、いつか自分も渡せるように、と尚紀は願った。
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