306 / 307
18章(13)
「そうだ、尚紀さんに飲んでほしくて持ってきたものがあるんだ」
潤が思い出したように言い出した。
彼がビジネスバッグから取り出したのは意外なもので、ステンレスボトル。どうしてそんなものが……と、尚紀が呆気に取られていると、彼はどこからか紙コップを持ってきて、中身を注いだ。
とぽとぽと注がれる、湯気から漂う優しい香り。
「あ……ミルクティだ」
弾んだ声が思わず漏れる。
潤が、どうぞ、と紙コップを渡してくれた。熱いからね、と言われたが、湯気が立っているカップを手にすると本当に熱い。
ふーっと冷ましてから一口。
濃厚な茶葉の香りと柔らかいミルクの風味が鼻から抜ける。
舌に触れる優しい味わい。
そしてミルクティが胃に落ちて、涙が出るほどに温かなものとして身体に広がっていくのがわかる。
「美味しい……」
すると彼は会社で煎れてきたとのこと。会社? と尚紀は目を丸くする。
聞けば、会社の給湯室で作ってきたとのこと。出来立てをここまで運んでくれたらしい。社長自ら? と尚紀が驚くと、潤は頷いて、社員に驚かれたと話してくれた。その手間と優しさに胸に込み上げるものを感じる。
ミルクティが好きだと尚紀が言うと、潤は頷いた。
「颯真から聞いて」
颯真にも潤にも自分の嗜好は完全に見抜かれていた。
飲んで飲んでと、おかわりを注がれる。
この優しい甘さのミルクティを見ると思い出すのは廉のこと。いつの頃からか、入院するときに持たせてくれるようになったミルクティのペットボトル。そこに廉からのメッセージが書いてあった。
「待ってる」
そんなメッセージが託されたミルクティを心の支えに、尚紀は治療を乗り切った。
廉さんの元に帰ると誓ったから。
尚紀は潤を見る。すると彼は尚紀を暖かい眼差しで見ていた。
視線がかち合う。嬉しくて少し気まずくて、二人でくすりと笑った。
優しい人。
やはり前の番について気にしてくれて、どこまでも寄り添ってくれる。
「この茶葉は颯真が、この病院の近くにある専門店で買ってきてくれたものなんだ。年が明けて、元気になったら一緒に美味しいお茶を飲みに行こう」
さらに、ワクワクする約束を提案してくれた。
ペア・ボンド療法が成功したら。退院したら。この人に廉の番であると話して、一緒に美味しいミルクティを飲みに行きたい。
自分なんかが一緒でいいのかな、とは思うけど、あまりに嬉しい提案で、尚紀は何も考えずにこくこくと頷いた。
ともだちにシェアしよう!

