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18章(12)

「尚紀さんのその項の噛み跡は、もう単なる傷跡だ。大丈夫。そう思っているのだから、拒絶したことにはならない」  尚紀は目を見張る。  なんて力強い言葉だろう。そんな強い意志が込められた言葉を、尚紀は初めて人から言われた気がした。  潤の言葉は躊躇いがなく、毅然としていて真っ直ぐだ。 「でも……」 「でもじゃないよ。その人を信じてあげて。尚紀さんが選んだ人でしょう?」    潤の言葉は終始力に満ちている。いや、言葉だけでなく口調にも張りがある。  そんなふうに言われてしまうと、その通りだと頷いてしまいたくなるほどに。  ……信じてしまいそう。  いや、信じたくなる。  この人の言葉に縋りたくなるのだ。  廉はそんな人ではない。自分だってよく知っているのだから。 「もし失敗したとしても、番になれなくても、僕を捨てることはないと……、パートナーにしてくれると言ってくれていますが……」  そんな人ではないからこそ、心配なのだ。もし、失敗して番になれなくて……、そんなお荷物な自分が廉のそばにいたら、彼の人生をダメにしないだろうか。 「それが怖いんです」  何より不安で、何より怖い。  気持ちが昂って、視界が潤む。こんな不安な気持ちをこの人に晒せないのに、自分の本音がどんどん剥かれている感じがする。 「もしそうなってしまったら、僕は自分を、責めても責めても……、きっと許せない」  すると尚紀の腕を掴む手にぐっと力が入ったのがわかった。尚紀は思わず彼を仰ぎ見る。そこには、強い意志の光。 「そんなことは絶対ない。重荷になんて、絶対にならない」  潤は強く否定する。  その強さに尚紀は圧倒された。 「……そうかな……」  そう言ってみるものの、結局は自分も信じたいのだ。この迷いのない人の言葉を。  以前の自分であれば、そんなふうに人の意見に靡くのは浅はかだと一歩引いてみせたかもしれない。しかし、この人の、深みのある人生に裏打ちされたであろう信じる力に縋ってみたいのだ。  自分は、誰よりも廉を信頼していて、誰よりも廉を愛している。  そして、誰よりも自分が廉を信じている。    それならば、誰より自分のことを信じなければならない。この人はそれを自然とできているのだろうと思う。  二歳上なのに、人生経験は一回り以上違うのではないかと思うくらいの言葉の厚みを感じる。言葉ではなく空気で納得してしまう。   「大丈夫。絶対うまくいく。僕も成功を祈ってる」  潤の「大丈夫」は、尚紀に勇気を与える。言われた分だけ、蓄積される不思議な言葉。  これまでどうにもならないものに人生を振り回されてきた。その時はその危機を脱するために懸命だったけど、自分を信じることはあまりしてこなかったように思うから。  今度は。

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