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05.射撃部-凸凹コンビ

「るっせーよ、バカ」  諫めたのは(かける)だ。注意を受けた小柄な子・(つづみ) 健太(けんた)君は大口を開けて頭を下げた。 「っ! わりっ! つい!」 「だからうるせぇって」  走は重々しく溜息をつきながら、1人歩き出した。大柄な子と、大きな目が印象的な可愛らしい子が走の後についていく。  2人が話しかけても、走は一貫して無視。だけど、そのことに2人がガッカリしたり、腹を立てることはない。構わず話しを続けて、リアクションを貰う度に喜んでる。怒りでも、呆れでも、どんなものでも。 「おはよ、奏人(かなと)」 「うっす! うっす!」  鼓君と紺ジャージの子・千輪(ちわ) (じゅん)君が声を掛けてくれる。 「なぁなぁ! (さき)様のことなんだけどさぁ~」  鼓君は、からっとした秋晴れのような笑顔が良く似合う明朗快活な子だ。黒髪短髪。丸い瞳。こんがりと焼けた肌をしている。自称170センチの実身長は167センチ。走よりも少し大きいぐらいの背をしている。 「どーよどーよ? 返事はもちろんYES! だよな?」  唇に指をあててサインを送る。それと同時に例のピンクずくめのおばさんが咳払いをした。 「すすすすっ、すんませんマダム! 今度、ウチのブドウ差し入れますんでッ!」 「だから、うるさいってば」  注意を入れたのは青ジャージの千輪君だ。鼓君とは対照的な秋雨がよく似合う知的でしっとりとした雰囲気を持つ。色白で切れ長の瞳にノンフレームの眼鏡がよく映える。鼓君とほぼ同じぐらいの背の高さで、鼓君と同じように170センチと自称している。 「うっせー! ジュンも何かマダムに献上しろ!」 「ウチ、農家じゃないし」 「税金、割引して差し上げろ」 「バカじゃないの」 「あぁっ!?」  鼓君と千輪君は見た目通り性格も対照的で、暇さえあればこうして口喧嘩をしている。これは何もここ数年の話じゃない。19年前から、つまりは赤ちゃんの頃からずっとこうであるらしい。そのためか2人の息はぴったり。口喧嘩だと分かっててもつい聞き入ってしまう。あまりにテンポが良くて。羨ましくて。 「うぉッほんッ!!」 「「すみませんっ!」でしたっ!」  鼓君、千輪君が揃って頭を下げた。堪らずふき出すと2人は揃って笑った。鼓君は豪快に。千輪君は控えめに。笑い方はそれぞれ違うけど伝わってくる感情は同じだ。 「奏人の隣も~らいっ」  鼓君は僕の隣、おばさんとは反対側の射座にライフルバッグを置いた。 「キモ」 「ぶふぅッ! キモいって言った奴のがキモいんですぅ~」 「小学生」 「若返りあざーーーすっ!!」 「話になんない」  言いながら千輪君は鼓君の隣の射座についた。鼓君は何も言わない。小さな喧嘩が絶えないけど、何やかんやで2人はいつも一緒にいる。いれる限りはずっと。  バッグのファスナーを開ける音が聞こえてくる。それと同時に会話はぴたりと止んだ。鼓君はテキパキと。千輪君はゆっくり丁寧に準備を進めていく。  2人が射撃を始めたのは高校1年の時。きっかけは奏人だった。鼓君は野球に。千輪君は勉強に明け暮れていたけど、しっくりきてなかった。この道じゃない。  それを認めて、奏人の手を取った。だからこそ今の2人がある。励まされる。同時に寂しくもある。本当に身勝手なことだけど。 「ん? 何々? どったの?」 「別に」 「えぇ~? 何だよぉ~」  擽ったそうに笑う鼓君から目を逸らすように弾を装填。スコープを覗き込んだ。『……1、2、3…………10』胸の中で10数えてトリガーを引く。 「……よし」  弾痕は9点を貫いていた。問題ない。これでいいんだ。 「おっ! すっげぇ! 絶好調じゃん!」 「まーな」  得意気に応えながら的を戻していく。走とおばさんの声が飛んでこないことを切に願いながら――。

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