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第13話 ネコがネコを被らない夜 ※

 俺の住んでいる所からそれほど離れていない壱成のマンション。場所は知っていたが入るのは初めてだった。  靴を脱いで、部屋に上がるか上がらないかの俺を、壱成は壁に押し付け唇をふさいだ。  熱っぽい情熱的なキス。俺は情けないことに壱成のキスに酔いしれて頭がぼうっとした。 「い……せい……」 「んっ……っ、……ノブ……っ……」  キスに夢中になっている間に、俺のベルトは外されファスナーも下げられた。  壱成は唇を離すと自分の指を丹念に舐め上げ、自分で後ろを準備し始める。 「い、壱成っ、それは俺が……じゃなくてっ、先にシャワー……っ」 「そんなのいい」 「壱成……っ」 「もう、待てないんだ。ノブ……」  そして壱成は膝立ちになり、いきなり俺のものを喉の奥まで咥えこんだ。 「うぁっ、は……っ……、いっ……せ……っ」  やばいやばいっ、こんなのだめだろっ。  壱成はディープスロートで喉の奥を締め、大胆に激しく頭を動かした。  俺は壱成の頭にふれてもいないのに、これじゃまるでイラマチオだ。 「うっぁ……っ、やめ……ろ、壱成……っ」  俺にはそんな趣味はないし、イラマチオに慣れていると思われる壱成に胸が痛くなった。  なんとか壱成の顔を離そうとすると、簡単に顔が離れホッとした。 「い、壱成、もういいから……ベッドに」 「ノブ……もう入れてくれ」 「は……いやまだ無理だってっ」  たったいま後ろを慣らし始めたばっかりだ。 「昨日の今日だ。もう充分だ」  壱成はそう言うと自分の手のひらに唾液を落とし、それを俺のものに塗りつけた。 「ぅあ……っ……」  壱成のすること、なにもかもがやばい。 「前から入れてくれ。ノブの顔を見ていたいんだ」  下を脱ぎ捨て壁を背に立った壱成は、自分の膝裏に俺の手を導き片足を上げた。  顔を見ながらしたい、とはまた違うニュアンスの『顔を見ていたい』という言葉に心臓が跳ね上がる。  昨日の壱成とは全然違う。なんなんだ。いったいなにがどうしたっ。  胸の鼓動が完全に壊れた。やばい、クラクラする。  俺はいまにも倒れそうだった。 「い、壱成……ゴム……」 「俺はあの男には必ずゴムを付けた。だから病気は大丈夫だと――――」 「そんなこと心配してねぇよっ!」  壱成の言葉をさえぎって声を上げた。 「そうじゃなくてっ」  目の前の壱成がやばすぎる。  全身で俺がほしいと言っていた。熱っぽい瞳が俺を射抜く。目が離せない。   「ノブ……お願いだ。そのまま入れてくれ。俺の中に……ノブがほしいんだ」  もうほんとっ。そんなのセフレに言うセリフじゃねぇだろっ。  どういうつもりなんだよ、壱成……っ。  あの男には付けるゴムを、なんで俺には付けさせないんだっ。  もう破裂しそうな俺の心臓の音が耳に響いてうるさい。 「ノブ、入れてくれ」  壱成は俺のものを自分の後ろにあてがい、熱のこもった瞳で俺を見つめ何度も「ノブ……」と呼んだ。 「壱成……っ」    俺は、のぼせた頭で壱成の中に自身を沈めた。昨日、死ぬほど優しく壱成を抱くと誓ったのに、もう完全にタガが外れてしまった。   「はぁっあっ……! ノブ……っぁ」 「壱成っ、……ぅ、……ぁ……壱成っ」  中がすごいうねっていた。入れただけで壱成の身体は痙攣し「あ゙ぁ……っっ!」と喉から絞り出すように引きつったかすれ声を上げた。 「イイ……ッ、……ぁ……」    と消え入りそうな声と、ぎゅっとしがみつく壱成に、俺は馴染むまでなんて待てなかった。 「壱成……っ」  腰を動かすたびに耳に響く壱成の喘ぎ声。ときどきかすれるハスキーな壱成の声にゾクゾクと快感が走る。  可愛い、壱成。好きだよ、壱成。   「ノブ……っ、きもちっ、イイ……ッ、…………あ゙ぁ……っ」 「壱成……っ」    何度も壱成の奥を突き上げながら、ふとさっきの「顔を見ていたい」の言葉を思い出し壱成を見た。よがって何度も身体をのけ反らせながらも、ずっと俺を見つめ続けていた。  目が合うと紅潮した顔で微笑み、俺のうなじを撫でる。  好きだ……壱成……っ。  思わず口から出そうになって壱成の唇にキスをした。 「ふ……っ、ンんっ……」  繋がりながらキスをして見つめ合う。俺の首に腕を回し、目を細めて嬉しそうに笑う壱成に愛しさで胸がいっぱいになった。    恋人になりたい。  壱成を俺のものにしたい。  毎日好きだと伝えたい。  セフレは……嫌だ……。 「ん……っ、イ……ク…………ッ」  唇を合わせたままそう漏らす壱成に、俺はさらに深くキスをしながら、壱成の身体が跳ね上がるくらいに下から奥まで数回突き上げた。 「んっ、ン……ッ、んんーっっ……!」  壱成がイクと、ぎゅうっと中が締まって痙攣し、踏みとどまるつもりが限界だった。 「は……っ、ぁ……っ……!」  ぶるっと身体が震え壱成の奥で弾けた。あまりの気持ちよさに壱成をぎゅっと抱きしめ、震えの止まらない身体を収める。 「ごめ、ん……中に、出しちゃった……」 「……中に……ノブがほしいって……言っただろ……」  中にほしいって、そういう意味だったのかと目を見開いた。  生で入れてほしい、それだけの意味だと思ってた。  「中に出されるのは……こんな感じなんだな……」    壱成が噛み締めるようにつぶやいた。  俺、耳がおかしいのかな。すごく嬉しそう聞こえるんだけどっ。  俺も、初めての中出しだった。恋愛の先の行為なんて今まではなかったから、生でなんてありえなかった。壱成が本気で好きだからできたんだ。  じゃあ、壱成は……?    俺たちは繋がったまま、動かずそのまましばらく抱き合っていた。  中の痙攣が収まったころ、壱成が静かに口を開く。 「ノブ……」 「……ん?」 「明日は、早いのか?」  明日は迎えが午後からだったな、と考えて、いや営業マンはもっと早いだろう! と慌てて頭を切り替えた。 「早い、かな。普通に出社だよ」 「そうか……。じゃあもう帰るだろ? ノブが先にシャワーを――――」 「ち、ちょっと待って」  家に来て玄関でやって帰るだけって……それじゃセフレまんまじゃん。やだよっ。  そう考えて、はたと気がついた。  舐めて勃たせて入れて終わり……俺はもしかして、あの男と同じことをしてしまったんじゃないだろうか。  今日は壱成から誘ってきた。もしかしてそうしなきゃだめだと思っているのかもしれない。  こんなのだめだ。ごめん壱成……。もう二度とこんな抱き方はしない。俺はもっと優しく壱成を抱きたいんだ。    「壱成、あのさ。……シャワーは借りるけど、まだいたらだめか? 俺、まだ壱成と一緒にいたいよ」  壱成をぎゅっと抱きしめて、首元に顔をうずめる。  お願いだからいいって言って、壱成。  このまま帰るのは絶対に嫌だ。  すると壱成は俺の息の根を止めるようなことを言ってきた。 「まだ……一緒にいてくれるのか?」  なにその可愛いセリフ。  あー……もうほんと、恋人になりてぇ……。  もうあれこれ考えずに覚悟を決めてしまおうか、と壱成を抱きしめる腕に力を込めた。  

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