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第24話 裏切られた 2 ♢壱成♢ ※
自分がいま、京と抱き合っているという現実に、まるで夢から覚めたように身体が震え上がった。
京はただの弟だ。PROUDの京だ。俺がこんなことをしていい相手じゃない。
青くなって京の身体を押しのけようとしたが、完全に血の気が失せて身体が動かない。まるで悪夢のようだ。どうしてこんなことになった。自分のやっていることが恐ろしすぎて視界がぐらついた。
胸がえぐられるほどの激しい自責の念に襲われたとき、京と目が合った。
まるで俺のすべてを溶かすようなキスをしながら、愛おしそうに俺を見つめる瞳。
俺はハッとした。
ずっと別の誰かを見ていると思っていた、この瞳。
初めて会ったとき、京は俺だとわかっていて声をかけたんだ。
俺じゃない誰かではなく、俺を見ているということだ。
『俺の、どストライクなんだ。壱成』
ならば京のあの言葉は同情か? 哀れみか?
バーで俺を見つけて話を聞いて、可哀想だとでも思ったのか?
『さっきの可愛い声で俺もうバキバキだよ』
『求めてるよ。めちゃくちゃ。ほしくてたまらないよ』
『今日からは、俺がいっぱい壱成を優しく抱くから』
『もう今日からは、俺のだけ覚えてて』
『じゃあ、もう俺がいるから怖くないね』
京の言葉が思い出される。
あの言葉は、本当は全部同情だったのか……?
『ごめん……実は俺が大丈夫じゃないんだよね』
京はそう言って、繋がったまま俺を抱きしめて泣いていた。
あのとき俺は、顔を上げて愛おしそうに俺を見つめるノブを見て、ノブは俺じゃない誰かを見ていると確信した。
でも、俺じゃない誰かなんて存在しないんだ。
違う……。これはきっと……同情なんかじゃない……。
京はずっと、俺だけを見ていた。
愛おしそうな瞳で、俺だけを見ていたんだ。
俺を、愛おしいと思っているんだ。
思いもよらないその事実に、ぶわっと感情があふれて胸が苦しくなった。喉がつまる。息が上手くできない。
『好きだよ……壱成』
『俺は壱成だけが好きだから』
あの告白は、本当に俺への告白だったんだ。本当に俺だけを想ってくれていたんだ。
いつ……から?
京はいつから俺のことを……。
『京ってさ。あのときの俺と同じな気がするんですよね……。きっと無自覚で執着してんの。榊さんに』
秋人のあの言葉、あれは秋人の考えすぎじゃなかったのか?
ずっと……ずっとお前は俺のことを……?
「壱成」
京の甘いささやきが俺の耳を溶かした。
「好きだよ……壱成。大好き」
心臓が激しく波打った。
この『好き』の言葉も、本当に俺だけのものなんだ。
別の誰かに向けた言葉じゃない、俺だけに向けた言葉。
京が熱い瞳で俺を見つめ、愛おしそうに頭を撫でる。
優しく腰を動かし、中も外も俺を愛してくれる。京の愛情を全身で感じる。
胸が張り裂けて苦しくて気が変になりそうだった。喉の奥が熱い。視界がぼやけてくる。
俺を愛おしそうに見つめるこの瞳に、ずっと嫉妬していた。
俺じゃない誰かがずっと羨ましかった。
ノブに愛されている誰かが、ずっと妬ましかった。
本当は、その誰かに俺はなりたかった……。
でも、京はずっと俺を、俺だけを見ていたんだ。
俺は、身代わりじゃなかったんだ……。
でも、身代わりじゃないからって……喜んだらだめだ。
喜んだら……だめだろ。
だめなのに……。
「壱成、どうした? なんで泣いてんの?」
京が心配そうに俺を見つめる。涙を拭う指が優しくてあたたかい。
どうして……どうして俺なんかをお前は……。
「壱成?」
京の優しい瞳が俺を見つめる。
いままで、俺に向けた愛情じゃないと思っていても胸が熱くなった。切なくて苦しくて意味もなく泣きたくなった。
それがまさか全部俺に向けた愛情だったなんて……嘘だろ……。
「ノ…………ノブ……」
京……。
「うん?」
「ノブ……」
京……。
「なに? どうした?」
「ノブ……っ」
京……っ。
京のうなじを引き寄せて、俺は唇をふさいだ。
どこか戸惑うように、それでも京は優しくキスを返してくれる。
俺は首に腕を回しぎゅっと抱きついた。
まるでそれが合図かのように、京のキスに熱がこもる。中も奥まで深くつながって、京は俺を全身で愛した。
「は……っ、ンッ、ん……っ……」
俺はマネージャー失格だ……。
だって俺は……もうお前を離したくない。
絶対に失いたくない。
好きだ……好きだよ、京。
俺なんかがお前に手を出したらだめなのに、もう引き返せない。
それくらい俺は……もうお前を愛してしまった。
京とマネージャーではだめでも、ノブとなら一緒にいてもいいだろうか……。
そんなずるいことを考える、だめなマネージャーで……ごめん。
頼むから……これからもずっとノブでいてくれ。
ノブのまま、セフレのフリをしていてくれ。
俺はそうしてでも、ずっとお前のそばにいたいんだ。
「あ……っ、も……ぁっ、イク……ッ……」
「俺も……っ……」
「中に……俺の中にっ、あ……っ…………」
「ん、わかった」
俺の中を京でいっぱいしてくれ。
「あ……っ、ぁあ゙ーー…………っっ!」
「は……っ、ぅ……っ……」
ドクドクと俺の中で脈打って、京の熱いものが中にじわっと広がった。
「は……ぁ……っ……」
こんなにも満たされたのは初めてだった。
身代わりじゃない、本当に俺自身を愛してくれている、そう思うと幸せで胸がいっぱいで全身が幸福感で包まれた。
京が愛おしくてたまらない。俺はすぐにまた深く唇を重ねた。この幸せを誰にも奪われたくない。絶対に……。
唇を合わせながら、京が嬉しそうに目を細め、俺の頭を優しく撫でた。
「涙やっと止まったな。ビビるじゃん……大丈夫?」
「……大丈夫だ。ただ……」
「うん?」
「ただ、すごく幸せだったんだ」
「…………っ、えっ?」
俺がそんなことを正直に口にするのは初めてだった。京は目を瞬いて固まった。
京が可愛い。
この上なく可愛くて、嬉しくて、幸せだ。
俺は本当に……マネージャー失格だ。
「ノブ。もう大きくなってるぞ?」
「…………っ、誰の……せいだよ……っ」
「ノブ、もっと俺がほしいか?」
「は……なに……。当たり前じゃん、そんなの……っ」
ただ聞いてみたくなっただけだったが、頬を染める京を見て、本当に俺が好きなんだな、と確認して喜ぶ俺は相当重症だ。
京に溺れている、だめなマネージャーだ。
京を抱き寄せ、耳元でささやいた。
「俺も……もっとノブがほしいよ。今日は一日中抱いてほしい。もう、ずっと俺の中にいてくれ……」
そうして耳にチュッとキスをすると、みるみる耳が真っ赤になった。
「……い、壱成……え、なに……今日どうした……?」
俺のすることに赤くなってオロオロする京が本当に可愛い。
ずっと身代わりでいいと思っていたのに、こんな幸せを味わってしまったら、もう身代わりだと思っていた頃には戻りたくないと思った。
本当に幸せすぎて、京が愛おしくてたまらなかった。
京が“ノブ”でいる間だけは、マネージャーだということを忘れていたい……。
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