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第43話 お兄さんに見られた ♢壱成♢

 お兄さんは、みんなをかき分けて俺の前にやってきた。 「あの、榊さん」 「お、お兄さん……っ」  慌てて土下座をしようと床に座り込むと、お兄さんが叫ぶように言った。 「土下座はもういいですっ!」 「し、しかし……」 「実は……京のことは薄々気づいていたんです。もしかしたら……ゲイかなって」    だから土下座はいいです、と腕をつかまれ、俺は引き上げられるように立ち上がった。   「気づいていたって……本当に……?」 「ええ。京の女嫌いは昔から異様でしたから」  お兄さんの言葉にメンバーが過剰に反応した。 「女嫌い?!」 「えっ、知ってた?」 「知らん。でも興味はなさそうだったよな」 「えっ嘘だろ?!」    お兄さんは、みんなを見て苦笑しながら話を続けた。 「子供の頃から、憧れる芸能人は男ばかりで、大人になっても女に興味もない。もしかしてそうかなって、何度も京のいないところで家族会議をしました。もし京がどんな男を連れてきても、動揺しないようにしようって」 「家族会議……ですか」    自然と気づいて素直に受け止め家族で話し合う。京の家族は、なんて素敵な家族なんだろう。  俺の家は母子家庭で兄弟もいない。唯一の家族である母を心配させたくないし、不安にさせたくもない。そしてなによりも、自分が拒絶されるのが怖くてカミングアウトをしていない。家族に話していないのは同じでも、俺とは境遇が違いすぎる。  いままでの俺なら、それだけでも不安や劣等感で京を諦めたかもしれない。でもいまは諦めたくない。京を失うこと以外に怖いものは俺にはもうなにもない。   「……お兄さん。私は、京さんよりも十も年上で、このような許されない立場にいる人間です。男同士という関係も、公に公表することはできない。これからもずっと隠し通さなければなりません。それでも、どうか……どうか、私たちの関係を許していただけないでしょうか……」    切実な思いで深く頭を下げた。  挨拶どころか、きっと見たくもないだろう光景を目の当たりにさせてしまっただろう。俺は深く後悔していた。 「許すもなにも、大歓迎ですよ!」   「大……歓迎……?」    言葉の意味を理解するまで数秒かかった。驚いてお兄さんを見ると、嬉しそうに笑っていた。  どうして俺なんかが歓迎されるのか、まったくわからない。   「だってほんと、いつどんな男を連れてくるかってハラハラしてたのに、その相手が榊さんとか、マジ優良物件すぎてっ!」    興奮したようにそう言ってから、はたと気づいたようにお兄さんは慌てた。   「あ、いや、そんな言い方失礼ですよね、すみません!」 「いや……最高の褒め言葉……かと」    自分が優良物件だなんて思ったこともない。そんな風に思ってもらえるなんて夢みたいで驚いた。   「じゃあ二人の仲に反対する人は誰もいないってことで! 榊さんはこのままマネージャーってことで!」 「ってことで!」  最後は全員が声をそろえてそう言った。 「いや、だめ……だろ。俺は絶対に許されないことを……」 「だって榊さんいなくなったらPROUD終わりですよっ!」 「てか、別に平等に見なくてもいいんじゃね?」 「そうそう。関係ないっしょ」  関係ないはずないだろう。 「俺が京の仕事ばかり取ってきたらどうするんだ」  俺の言葉にみんなが吹き出した。 「榊さんがっ? 絶対ないっ」 「ありえないでしょっ」 「飛躍しすぎっ」  寝ている京を気にして声を抑えつつ、こらえ切れないというように笑い転げる。   「俺ら七年も一緒にいるんですよ? 京には負けるかもしんねぇけど、榊さんのことはちゃんとわかってるって」 「そうだよ。榊さんほど信頼できる人、他にいねぇもん。だから絶対辞めさせねぇよっ」 「うんうん」 「そうそう」  誰一人として、俺と京の関係に嫌悪を抱いたり、俺のマネジメントを拒否したりする者はいなかった。  俺は、なんて幸せ者なのだろうか。思わず目頭が熱くなる。   「榊さんが辞めるなんて京が聞いたら、大暴れですよきっと」    お兄さんがベッドで眠る京を見る。  つられたようにみんなが京を見て「大暴れだな」「間違いないな」とうなずいた。   「京は本当に昔から榊さんが大好きだから」  お兄さんがしみじみと言った。 「は……」 「だから自分のせいで辞めるなんて知ったらどうなることか……」  京はデビューしてからずっと一人暮らしだ。お兄さんとはそれほど頻繁には会えなかったはずだ。それなのに、京が俺を昔から大好きだと断言するのはなぜだろうか。  そんな疑問が俺の頭を駆けめぐり、その様子を見ていたお兄さんは、まるで期待どおりの反応だと言わんばかりに微笑んだ。 「京は昔から、会うと必ず榊さんの話をしていたんですよ。仕事やメンバーのことよりも、まずは榊さんの話題が出てくるんです。大好きなんだなぁっていつも思ってました」  お兄さんの話に予想外の衝撃を受けて、俺は顔が熱くなった。  京……お前ってやつは……。 「榊さん顔真っ赤!」 「……うるさいよ」 「ほんとに京が好きなんだぁ。俺やっと実感してきた」 「京が榊さん大好きなのは知ってたけどさ。ただなついてるだけだと思ってたわ。まさか二人がくっつくとか……はぁーすげぇ感動っ」 「んで、榊さん。辞めないよねっ?」 「そうだったっ。辞めねぇよなっ?」 「辞めないって言ってっ!」  みんなに囲まれ懇願されて、胸が熱くなる。  自分がこんなにも必要とされていることを知って、本当に幸せ者だと実感した。 「こんな俺が……本当は許されないとわかっている……。でも……これからもどうか、よろしく頼む……」  ついには辞めないと約束してしまった。 「よかったっ!」 「こちらこそよろしくっ!」 「うおー! 榊さんー!」  全員が俺に抱きついてくる。 「京に見られたら殴られっかな?」  というリュウジの言葉に、みんなが笑った。  

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