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第44話 なにがどうなってる
聞き覚えのある話し声で目が覚めた。
メンバーの声だ。ここはどこだ? と考えたのは一瞬で、俺はハッとして起き上がった。
「京、急に起き上がんなって。大丈夫か?」
リュウジの言葉に返事ができない。
腕を見下ろした。……無い。腕のリボンが無い。嘘だろ……やっぱり夢オチか……。マジか……。
あまりの落胆にふたたびベッドに倒れ込んだ。
「おい、大丈夫か? いま医者呼ぶから」
リュウジは心配そうに眉を寄せながらナースコールを押し、俺が目覚めたことを伝えた。
他のメンバーも寄ってきて、俺はみんなに囲まれる。
大丈夫か、大変だったな、ニュースすげぇぞ、口々にあれこれ言われたが、俺は重大なことに気がついてそれどころではない。
あれが夢オチなら、壱成は? 無事なのか?
心臓がドクドクと暴れて背筋に冷たいものが走る。
「さ、榊さんはっ?」
俺が慌てて問うと、みんなは一斉に静まったあと盛大に吹き出した。
「開口一番かよっ」
「さすがだなっ」
「京、お前可愛いなー」
「……は? え?」
榊さんは、と聞いたのに答えは返ってこないし反応がおかしい。
壱成は無事なのか?
みんなが笑ってるってことは無事なのか?
俺が戸惑っていると、看護師と医者がやってきた。
「どうですか。どこか痛みや不調はありますか?」
問診と診察が始まり、みんなはベッドから離れて行った。
するとそのとき、病室にノック音が響き壱成が入ってきた。
壱成が元気に歩いていた。どこにもケガをしてる様子はない。よかった、と俺は胸を撫で下ろした。
壱成は医者の存在に気づいてすぐに足を止め、俺を見て安堵の息をこぼす。そして俺と目を合わせて柔らかく微笑んだ。
ドクンと心臓が高鳴った。あれ……いまはA面……だよな?
壱成が手元を見下ろした。指先が左の薬指にふれ、優しく撫でる。
えっ……嘘だろ……なんで。なんで指輪が……。
もしかして、夢オチじゃないのか……?
あれは全部現実?
苦しいくらいに心臓が激しく高鳴った。
「ん? 脈が乱れてるな……」
聴診器を俺の胸に当てていた医者が眉を寄せた。
「あ……ち、違いますっ。あの、ちょっと考え事を……いま動揺していて……」
「ああ。世間が大騒ぎですしね。それは動揺もしますよね」
「え、あ、は、はい」
めっちゃ挙動不審になった。でも医者は気に止める風でもなく問診を続けた。
ソファに集まっているメンバー達が、声を押し殺すように俺を見て笑い転げてる。
さっきからなんなんだ。なんであいつら笑ってんの?
そのあとも、俺は壱成の指輪から目を離せないままグダグダに診察が終わり、医者と看護師が戻って行った。
「いっせ…………さ、榊さんっ」
壱成と言おうとして慌てて言い直す。またみんなが笑った。
壱成はすぐにベッドまで来て横に座り、ベッドに肘をついて俺の手をぎゅっとにぎる。
「京……なにも不調は無いんだな?」
「な、無いよ」
俺の言葉を聞いた壱成は、神に感謝するかのように、にぎった手を額に当て「よかった……」と深く息をついた。
「榊さんは……大丈夫……?」
「え?」
「ケガは? 俺ちゃんと守れた?」
「……京、もしかして……一度目覚めたときの記憶が……」
「い、いや、覚えてんだけど、なんかおぼろげで……夢オチな気がして……どこまで現実かなって……」
「夢オチ……」
壱成が急に不安そうな表情で俺を見つめる。
「京……プロポーズは……覚えてるか?」
「あ、え、お、覚えてる……けど」
ちょっと壱成、みんないるんだぞっ。メンバーのほうに何度も視線を送って壱成に訴える。
でも、壱成は俺の返事を聞いて不安そうに瞳をゆらした。
「けど……なんだ? ……京、俺たち、人生のパートナーになるんだろ? これは婚約指輪なんだよな……?」
そう言って俺の手を強くにぎりしめたまま、薬指に輝く指輪を口元に寄せ、愛おしげにキスを落とした。
「い、いっせ……っ」
え、みんないるのに……えっ?
叫びたいくらいの歓喜に震えながらも、みんなの目が気になり動揺した。
どういうことなんだ、俺はどうすればいいんだっ。
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