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第46話 どれほどつらい思いを……
壱成は事務所に戻り、メンバーだけが残った。
「もう帰っていいよ?」
根掘り葉掘りいろいろ聞かれ、俺はぐったりしていた。
壱成がマネージャーという立場にいながら俺と……そういう誤解を解きたくて、ノブとして出会っていまに至ることも全部話して聞かせた。
みんなは目を丸くして、そしておもしろがった。
疲れた。どっと疲れた。
もう帰っていい、そう言ったのに誰も帰ろうとはせず、ずっとベッドの周りを囲っている。
「あとで榊さんと二人っきりなろうとしてんだろっ」
「そんなん邪魔してやるっ! 京のくせに生意気だっ!」
「なんでだよっ」
そんなことを言いながら、俺を一人にさせようとしないみんなに胸がむず痒くなる。
本当こういうところ大好きだ。マジで自慢のグループだ。
スマホをいじりながら「マスコミ報道すげぇぞ」とメンバーが言い出した。
「あ……報道ってどんな感じ?」
そうだった。忘れてた……。
あのとき俺は必死で壱成を追いかけた。聞かれてまずいことは言っていないはずだが、あれはあきらかに揉めていた。もし誰かに見られていたら……。
「PROUD京、意識戻る。命に別状なしに歓喜の声!」
「PROUD京、命をかえりみずマネージャーを助ける!」
「格好良すぎると大絶賛! PROUD京!」
「PROUD京、トレンド入り! マジか、トレンド入りだってよ」
「お、ほんとだ。SNSすげぇわ」
「京が無事でよかった! 神様ありがとう! あ、こっちも神様ありがとうだ。神様もトレンド入りしてんじゃね?」
「京カッコイイ! マジ惚れちゃう! だって」
「ぶっはっ! これウケる! ただのおちゃらけ男じゃなかったんだー。だってよっ」
どこにも揉めていたという報道はなかった。俺はホッとして安堵のため息を漏らす。
「でもさぁ。そこに愛があったなんて誰も気づかないよなぁ」
「だよなぁ」
ニヤニヤ顔でみんなが俺を見る。
ここで反応すると余計にだめなんだ。わかってる。
「そーだけど? 愛だけど? 壱成はもう俺のもんだからな。取んなよ?」
「うわー牽制 されたー」
「てかさぁ。変装して知り合って? そーなっちゃうってさ。なんか運命みたいだよな」
「すげぇよな。榊さんは京だって知らずに好きになっちゃったんだろ? うわードラマの設定みてぇだなっ」
なんで俺、みんながいることにも気づかずプロポーズしちゃったんだろう。
目が覚めたら壱成がいて、車道に転がった壱成を見たのが記憶の最後だったからすげぇホッとして、そして焦った。
だからって……確認しろよ……俺。
でも、なんで壱成は止めなかったんだろうと不思議に思った。
みんながいるとわかってて、なんで黙って俺に抱きしめられてたんだろうか。
……まあでも、隠す必要がなくなったのはよかった。みんなが味方でいてくれることもすごい嬉しい。
やっぱPROUD最高だな。
「京がいないと生きていけないなんてさ。そんなすげぇこと榊さんに言わせちゃうんだもんなー。ほんとお前すげぇよ」
「は……なに、それ……」
なんの話だよ。なにその言葉……。
「あっ。そっかそっか、お前寝てたもんなっ。そりゃ聞いてねぇよなっ」
「榊さんが言ってたんだよ。もう俺は京がいないと生きていけないって」
まさか壱成がみんなにそんなことまで言うなんて、とてもじゃないが信じられなかった。
ぶわっと感情があふれて鼻の奥がツンとする。
「京が死んだら俺も死ぬって……まだ京が無事だってわかる前に言ってたよ。榊さんは、最悪の場合まで覚悟してた」
秋人の言葉に愕然とした。
俺が死んだら、なんて思うほどの事故だったのかと背筋が凍る。
自分がはねられた瞬間のことはなにも覚えてはいないが、壱成が車道に転がった瞬間のことは鮮明に覚えてる。すぐそこに車が迫っていて、このままだと壱成が死ぬと思った。
とっさに壱成の腕をつかんだ。引っ張り起こしながら車道に出て、力いっぱい壱成を歩道に突き飛ばした。
俺の記憶はそこで途切れてる。壱成が無事だったかどうかも確認できなかった。
でも、目が覚めたら壱成は無事で、俺も骨折程度で済んでいたからなにも深刻に考えていなかった。
秋人の言葉で、みんなも呆然としていた。
「マジか……榊さん、そこまで覚悟してたのか……。服も手も血まみれだったもんな……」
「それであの言葉だったのか……。『京がいないと生きていけない』なんて、突然すごい言葉だなって思ってたけど、やっと納得したわ」
「だな……」
みんながうなずいた。
壱成……。いったいどれだけ苦しい思いをしたんだろう。
俺は、車道に転がった次の瞬間はベッドの上だった。
壱成が味わった思いなんてなにもわかってなかった。そんなことは想像すらしてなかった。
「京が目を覚ますまでも凄かったもんな……。ずっと手にぎったままでさ。何度も泣いてたし、口元に手当てて息してるかも確認してたな。そっか……俺なんもわかってなかったわ……」
「たぶん脈も測ってたよ。なんかすげぇ弱りきっててさ。あんな榊さん初めて見たよ。また倒れんじゃねぇかってハラハラしたもん」
「倒れる? また……?」
倒れるってなんだ。またってなんだ。
どちらも聞き流せない言葉だった。
秋人が答えた。
「ずっと気張りつめてたからさ。京が無事だってわかった瞬間、気失ったんだよ」
「え……っ?!」
「救急病棟のベッドで休んでて。一時間くらい経って、この病室に駆け込んで来た」
「京にすがりつくみたいに泣き出してさぁ。あれはほんとビビったわ。俺、骨折と脳しんとうとしか聞いてなかったからさ……」
もう限界だった。涙があふれ、視界がぼやける。
壱成がどれほどつらくて苦しい思いをしたのかを考えると胸が締め付けられた。
いますぐ壱成を抱きしめたかった。
「そりゃ泣いちゃうよなぁ?」
リュウジが俺の頭に手を乗せて言った。
「だよなー泣くよなー?」
「泣かなきゃおかしいって」
「これで泣かなかったら別れさせるよな?」
みんなが俺をいじって笑った。
わかってる。泣いた俺が気にしないようにと、わざといじってくれている。
「……茶化すなよ」
「ふはっ、京可愛いー」
「……うるさいよ」
俺は本当にPROUDが大好きだ。
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