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第47話 兄貴にもバレてんのかっ
「やっと目覚めたか、弟よ」
「兄貴」
昼の時間になって兄貴がやってきた。営業の外回りの合間に寄ったらしい。
来たと同時に食事が運ばれて来て、メンバーたちは昼を食べにみんなでゾロゾロと出て行く。
兄貴は買ってきた弁当を広げ、一緒に食事をとった。
「父さん達さ。今日来る予定だったんだけど、報道のとおりで特に心配ないから来なくていいっつっといた。よかったか?」
「ああ、うん。サンキュ。あとで電話しておくわ」
骨折と頭切ったくらいで北海道から来られても申し訳なさすぎだ。
てか兄貴が来るのも遅くてよかった。兄貴にまでバレるとか絶対最悪じゃん。回避できてマジよかった、とこっそりホッと息をつく。
「お前、特になにもなければすぐ退院なんだろ?」
「あ、うん。そーみたい。本当にどこも不調ねぇし」
「もし父さん達来たらさ。せっかくだからっつってしばらく居続けるだろーなって思って。退院してもさ」
「……うん?」
なにが言いたいのかわからない。
「お前、絶対榊さんと二人っきりになりたいだろ? だから兄ちゃんが阻止してやったからな」
「へ……?」
一瞬で冷や汗が流れた。
「いやー。マジで榊さん、優良物件だよな。お前すげぇな」
なんだよ、バレてんじゃん……っ。
え、てことはハグとかチューとかプロポーズとか全部見られたってことじゃん……っ。
ありえない。兄貴にまで……マジかよ……。
うなだれて顔を両手で覆った。
「京、どうした?」
「……なんでもねぇよ」
てかみんなもだけど、兄貴も普通に受け止めすぎじゃね?
ゲイってバレたらもっといろいろ大変だと思ってた。だからいままで孤独に生きてきたのに……。
「つうか兄貴。優良物件なんて言い方、榊さんに失礼だろ」
「最高の褒め言葉だって言われたぞ?」
「……誰に」
「榊さんに」
「はっ? 榊さんにも言ったのかよっ」
「いや……ついポロッとな?」
最高の褒め言葉なんてただのフォローだろう、と壱成の気持ちを思うと心配になった。
俺の家族が壱成を傷つけるとかないだろ。マジでほんとやめてくれ。
昼食を食べ終え、兄貴が食器を下げに行ってくれたタイミングで秋人が一人戻ってきた。
「あれ? みんなは?」
「マスコミにつかまってる」
「え、マジ?」
「いや。あいつら、わざとおもしろがってつかまりに行ったから気にすんな」
「は? なんだそれ」
あいつらならやりそうだな、と俺は笑った。
「お兄さんは?」
「いま食器下げに行ってる」
「そっか……」
兄貴が戻ってきてもいいように、秋人は新しい椅子を用意して兄貴とはベッドを挟んで反対側に腰をかける。
なにか思い詰めたような顔をしてうつむく秋人に首をひねった。
「秋人、どした?」
「いや……あのさ……」
秋人が口ごもっていると兄貴が戻ってきた。
「お、秋人くん戻ってたんだ」
と声をかけたあと、秋人の様子を見て「あ、俺ちょっとトイレに」とわかりやすく気を使って出て行こうとする。
「あの、お兄さんも……少しいいですか?」
「え、あ、俺も?」
戸惑うように戻ってきた兄貴が椅子に座ると、秋人は俺と兄貴に向かって深く腰を折って頭を下げた。
「京、ごめん……本当にごめん……。お兄さんも、本当に申し訳ありませんでした……っ」
突然頭を下げて秋人が謝ってきた。
「へ? なんだよ、なに謝ってんの?」
「秋人くん?」
秋人がなんで謝ってるのかさっぱりわからない。
兄貴にも謝るってなんだ。
ゆっくり顔を上げた秋人は、蒼白な顔で俺たちを見た。
「おい、秋人?」
「京……。俺のせいだよな。俺が榊さんとちゃんと向き合えって言ったから、だからこんなことになったんだろ……?」
「は?」
秋人はなにを言ってんだ。
「まさか事故のことで謝ってんの? お前なんも関係ねぇじゃん」
「関係あるだろ。俺がお前をたきつけなきゃ、こんなことにはならなかっただろ。名乗ろうとしたお前から榊さんが逃げて……そんなところだろ?」
秋人がドンピシャに言い当てる。いや、確かにそうなんだけど……。
「秋人は全然関係ねぇよ。俺はお前に言われなくても壱成に名乗ってた」
「いや、名乗ってねぇよ。一緒に飲んだとき、あんときまではお前、絶対名乗る気なかっただろ……。俺が言ったから名乗ろうって気持ちになったんじゃん……」
そう言われて思い返してみた。確かに秋人と飲んだ日に名乗る覚悟を決めた。勇気が出なくてズルズルしたが、確かにきっかけは秋人の説得だった。
「いや……元をたどればそうかもしんねぇけどさ。でも、だからって事故はただの事故だよ。秋人は関係ねぇんだって」
なにを言っても秋人の表情は変わらない。
「いや、俺が悪いんだ……本当にごめん……。俺のせいでお前が怪我をして、榊さんをあんなに泣かせたんだ……」
俺は壱成だけじゃなく秋人にまでこんなつらい思いをさせているのかと、胸が苦しくなった。
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