「やっぱり……俺の服だと地味だな」 　 　退院の準備が終わり病室を出ようとしたら、壱成が俺を見てしみじみと言った。 　 「え？　そう？　黒一色でカッコイイじゃん」 「……京はカッコイイが……デザインが京らしくない。地味だ」 　 　俺の服は血があちこち付いているからと、壱成が服を用意してくれた。 　 「ねえ、もしかしてこれ選ぶの、すごい時間かかった……？」 「…………俺は京に似合う服なんて持ってないからな。PROUDの京が着るのに簡単には決められないだろ」 　病院から家まで車の送迎であっという間の距離なのに、俺に似合う服を一生懸命選んでくれたのかと思うとたまらなくなった。 　みんなは仕事で今日は壱成と二人きり。やっと二人きりだった。 「おい、なにしてる」 　抱きしめようとした腕を壱成につかまれ阻止された。 　片腕しか自由がきかないせいで、抵抗してもビクともしない。 「抱きしめたかった……」 「……ばか。いいから早く行くぞ」 「ちょっとだけ」 「……家まで待てないのか？」 「家に着いたって、どうせ壱成はすぐ仕事だろ？」 「……俺は、しばらくお前に付きっきりだ」 「………………え？」 　言われた意味が理解できなくて、たっぷり考えてから聞き返す。 　付きっきり……付きっきり？ 　 「お前のギプスが取れるまで、俺が世話係だ」 　 　世話係……。 　 「え……と、それって……仕事と同じで日中だけ……」 「一日中だ」 「…………え、っと……夜も……一緒？」 「そうだ」 「な…………っ」 　 　なにその夢みたいな話はっ！ 　ドドドッと心臓が暴れた。 　マジか……っ。もうノブじゃないからカラコンも必要ない。朝まで壱成と一緒にいられるじゃんっ。 　でも……世話係って……。 　 「……壱成、マネジメントは……？　秋人とリュウジは……？」 「サブマネがいるから問題ない。俺はしばらく京にだけ付く。お前が言ったんだろう、管理しろと。事務所には世話係でなんとか納得してもらった」 　 　嘘みたいな話に一瞬身体が震えた。 　ずっと夢だった。マネージャーとしての壱成を、大好きな兄ちゃんを、独り占めにしたいとデビューの頃からずっと思ってた。センターの二人がずっと羨ましかった。 　センターになりたい願望は特別なかったが、壱成を独り占めにしたいという理由でセンターに憧れた。 　秋人とリュウジは別格で、俺はセンターにはなれない。二人を認めているから悔しくはない。でも、壱成を独り占めにできないことだけは、ずっと悔しかった。 　 「俺……壱成を独り占めできるんだ……」 「まぁ、そうだな」 　 　俺がどれだけそれを焦がれていたか、なにも知らない壱成の返事が素っ気ない。 　今度、嫌というほど聞かせてあげよう。 　 　病室を出るときになって、壱成の足が止まる。 　 「壱成？」 「……京。よく聞け」 　 　壱成の厳しい表情に緊張が走った。 　 「この病室を出た瞬間に、俺たちは芸能人とマネージャーだ。それを絶対に忘れるな」 「…………うん」 　 　わかってる。この病室は特別だった。メンバーみんなが認めてくれて隠す必要がなかった。 　この中だけの夢の世界だった。 　 「名前で呼ぶのもだめだ」 「……うん」 「むやみに俺にふれるな」 「……うん」 「その甘い顔も引っ込めろ。これまでどおり、俺たちはPROUDの京とマネージャーだ」 「…………わかってる」 　 　壱成の表情は、もう完全に仕事モードだった。 　壱成に言われなければ、気持ちの切り替えが出来ないまま外に出ていた。浮かれすぎだ。俺ほんと……ガキだな。 　 「…………これも外さなきゃだろ」 　 　そう言って壱成の左薬指の指輪を撫でた。 　……あれ？　でも壱成は何度も事務所に行ったり外に出ていたのに、ずっと指輪をはめたままだった。 　 「……これは外さない。もう目ざとい職員に見つかって、恋人にもらったと話してしまったしな」 「えっ、それ大丈夫なのかっ？」 「なにがだ」 「なにが……って……」 「俺は芸能人じゃないから隠す必要ないだろ」 　 　そう……なのか。俺はいろいろ隠す必要があっても壱成はいいのか……。 　 「女よけに無理やりつけられたと言ったらみんな納得してたよ」 　それはそうだろう。壱成はネコとしての需要はなかったかもしれないが、女性には普通にモテる。だから七年も彼女ができないことが不思議だったんだ。 「この指輪は絶対に外さない。…………俺の宝物だ」 「…………っ、いっ……」 「ほら。早く行くぞ」 　 　仕事モードで凛々しい壱成の、耳が赤かった。 　ドアを開ける直前にそんな不意打ち、やばいだろ。可愛すぎだろ。 　俺、顔赤くなってねぇかな……っ。 　 　マスコミにつかまらないようにと裏口から出たのに、まんまとつかまってしまった。 　 「広瀬さん、体調はいかがですかっ？」 「事故でかばったマネージャーとはこの方ですかっ？」 　壱成が必死で盾になってくれている。 　用意された車はすぐそこで、サブマネが運転席で待機していた。 　 「あーえっと、俺、全然元気っす。腕折っただけっす。すぐ仕事再開するので、よろしくお願いしますっ」 「マネージャーをかばったときの心境はっ？」 「心境っすか。うちの敏腕マネージャーがいなくなったらPROUD終わりなんで。大切だから助けましたっ」 　 　そこまで言うと、俺の身体は車に押し込められた。 　壱成が急いでドアを閉める。 　 「さ……榊さん、ちょっと……痛たかったよ？」 「お前が余計なことをペラペラしゃべるから押し込むしかなかったんだ」 　 　本当につれないな。とため息をつく間に、壱成が俺のシートベルトを閉めた。 「……どこが痛い？」 「……もう大丈夫」 「そうか……すまん」 　現金な俺は、これだけでもう上機嫌だ。 　 「じゃ、動きますよ」 「ああ、頼む」 「榊さんの家でいいんですか？」 「いや、京の家だ。自分の家のほうが落ち着くだろ」 「了解です」 　 　えー……。俺は壱成の家のほうが落ち着くのに……。 　二人の会話を聞きながら心の中で一人不貞腐れた。 　 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇ Pixivで活動中のすかいぶるー様が素敵な表紙を書いてくださいました♡　いつも本当にありがとうございます♡*.+ﾟ