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第53話 思わず本気のキス
壱成は一日かけて俺の部屋を片付け掃除をした。
片腕が不便なだけだから自分でやると言ったのに、分かってはいたけど「京は大人しくしてろ」と一括された。
俺の部屋着を着た壱成が俺の部屋にいて家事をする姿なんて、レアすぎて嬉しくてずっと見ていられた。
でも、壱成が夕飯の準備に入る頃には俺はもう限界だった。
退屈だっ！
もう座ってんのやだっ！
ソファに座ったまま地団駄を踏む。
そんな俺に気づいた壱成が、くっと笑って俺を呼んだ。
「ちょっと来い」
「なにっ？」
俺は飛びつくように壱成の元に駆け寄った。
「俺が材料を切っていくから、お前は鍋で炒めてくれ」
壱成が俺に料理を手伝わせてくれるのなんて、初めての料理のとき以来だ。
「俺やっていいのかっ？」
「パートナーになったなら料理くらい覚えてくれないとな？」
「え……っ！」
マジか。手伝いくらいならできるかもしれないけど料理覚えられるかな。
固まる俺に壱成は笑った。
「とりあえず手伝いな？」
「おっけっ！」
「今日はカレーだ」
「マジ？ やったっ！ カレー好きっ！」
「知ってる」
壱成の横でニコニコしていたら、不意に唇にキスをされた。
軽く終わるかと思ったのに舌が入り込んできて驚いた。
家事をしてる壱成を眺めながら、本当はずっとキスがしたくて抱きしめたくてたまらなかった。
嬉しくなって舌を優しく絡めると、壱成の両手が俺のうなじと髪をいじるように撫でた。
「ん…………きょう……」
熱い吐息をこぼして熱っぽい瞳で俺を見つめる壱成にゾクゾクして、思わず本気で舌を絡めにいった。深く、もっと深く。
「んぅっ……」
俺のキスしか知らない壱成の熱い舌が、俺の舌の動きに合わせて必死で絡めてくる。可愛くて愛おしくてたまらない。
壱成の好きな裏顎をくすぐるように舐めると、ビクビクと身体を震わせて首にしがみついてくる。
幸せすぎて脳がしびれた。身体が燃えるように熱くなっていく。
やばい。これはもう完全にベッドに行く流れのキスだ。
だめって言われたのにこのままじゃ……。
必死に自制して唇を離した。
俺も壱成も完全に息が上がってた。
「ごめん……止めらんなかった」
とろけきった壱成の顔を見て、情けないことに俺の下半身が期待でうずいた。だめだ鎮まれ。
壱成が甘い吐息を漏らしながら、俺の肩にトンと頭を預ける。
「……すまん……いまのは俺が悪い。キスがしたくてたまらなかったんだ……」
壱成それは襲ってって言ってんのっ？
……いや違うな。きっと思ったまま口にしてるだけだな……。
「すまん……思わず本気になった……」
「謝んなって。俺だってずっとキスしたくてたまんなかった。だってこんなずっと二人きりでさ……」
「違うんだ……」
「ん？ 違う？」
「……ノブのキスとは……全然違うんだ」
いや、違うはずがないだろ。ノブだって俺なんだから。
「軽くキスをしてやめるつもりだったんだ。でも……お前の青緑の瞳に見つめられたら……身体中がゾクゾクして……もっとほしくなった」
壱成の顔が首元にすり寄ってくる。
俺は、その壱成の仕草にゾクゾクした。
「髪を撫でたら、ノブとは違う柔らかいふわふわの京の髪で……。ノブじゃない、京なんだって実感したら……もうたまらなかった。俺がだめだと言ったのに……火をつけるようなことをして、本当にすまない」
壱成は荒い呼吸を整えるように深い息をくり返す。
「壱成……このままベッドは……」
「…………だめだ」
「よな。うん」
こんな息の上がった状態でも、俺の身体を一番に心配する壱成の気持ちが逆に心配になる。
壱成は俺が死ぬかもしれないという恐怖を味わったんだ。 期待した息子はつらいけど、壱成の気持ちもわかる。俺だって逆の立場だったら壱成と同じだったと思う。
「今日はだめだ……。せめて今日は安静にしてくれ」
「え、明日はいいの？」
さっきはいいとは言わなかった。
きっとまただめだって……。
「……お前が……すごく元気だったらな」
「…………マジで？」
「そのかわり俺が上だぞ」
期待してなかった許可が下りて、不意をつかれた俺はドクドクと心臓が暴れた。
ノブじゃなく京のままでこんな会話……マジで嘘みたいだ。
「京、やっぱり舐めてやるよ。そのままじゃつらいだろ？」
壱成は俺の頬にキスをして顔を上げた。
下が反応してるのバレてたか。
「いいって。そういうの嫌いだって言ったじゃん」
「俺はお前にならいくらでも奉仕するぞ？」
「奉仕はだめ」
唇にキスを落として頬を撫でると、気持ちよさそうな顔でキュッと目を閉じる。やばい。可愛いすぎる。
「壱成、早くカレー作ろうぜ。カレーっ」
「……そうだな。じゃあお前はヘラで炒める係だ」
「おっけーっ」
ヘラで炒めて水を入れて煮る。それくらいなら俺でも余裕でできた。
そのあとは、壱成がカレールーを割り入れてまた煮込んだら終わり。
なんだ、要は包丁が使えれば俺だってカレー作れんじゃん。
腕が治ったら作ってびっくりさせよう。
そんなことを思って、俺は一人ほくそ笑んだ。
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