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第55話 壱成のほうがつらいだろ
ゲームが始まると、みんながイキイキと動いてめちゃくちゃ楽しそうで、一緒にやりたくて身体がムズムズした。
バスケのフリースローだって本当は俺もやるはずだった。
すごいやりたかった二人羽織。見てても楽しかったが、参加できない悔しさで気分が沈んだ。でも、これは収録だ。ちゃんと楽しそうにしないとな。
みんなは、参加できない俺を常に中心に囲って、成功を喜び失敗を悔しんだ。
これがなかったら、俺は笑顔をたもてなかっただろうと思う。
マジでPROUD最高。
参加したジェスチャーゲームは、ジェスチャー側に行けない分、回答は俺がっ! と次々と俺は正解させた。
「よっしゃーーっ!」
ガッツポーズで喜ぶ俺に司会者は「まるで水を得た魚だなっ」と、がははと笑った。
伝言ゲームは失敗だったけど、俺のミスは無かった。よっしっ!
俺たちの得点は優秀で、視聴者プレゼントは最高額の物になった。
「広瀬くん。腕が治ったらまたリベンジに来てよ」
「絶対来ます! 二人羽織やりたいっ! 全部やりたいっ! 絶対来ますっ!」
「圧がすごいなっ!」
がははと司会者が笑って観覧席が沸く。
興奮して絶対来ますを二回も言っちゃった……。
家に帰宅しソファに落ち着いて、俺は壱成の肩に頭を預けた。
「お疲れ、京」
「……うん。壱成……慰めて」
壱成は俺の頭に頬をすり寄せ、そっと俺を抱きしめる。頭の傷と背中の打撲にふれないようにそっと。
「今日の収録も休めばよかったな……。ストレス溜まっただろ」
「休むよりはマシ。ちゃんと参加できたし」
「京……ごめんな……」
「なんで壱成が謝んの?」
「……いまのお前のストレスは、全部俺のせいだろ」
なんで、と言おうとして、事故のことを言ってるんだと気が付いた。
うーん……どう言えばいいかな。
「壱成はさ、なんで俺なんて助けたって言うけどさ」
「だってそうだろ……」
「逆の方がよかった? 本当にそう思う?」
「は……当たり前だろうっ。車にひかれたんだぞっ?」
「……じゃあさ。たとえば逆だったとするじゃん? 壱成が病院に運ばれてさ。俺は壱成が処置室にいる間、壱成が死ぬかもしれない……壱成が死んだら俺も死ぬって覚悟してずっと待ち続けてさ。壱成が目覚めるまで、不安で不安で死にそうになるの。いまと全部逆になるの。…………そっちのほうがよかった?」
壱成はなにも答えず、俺を抱きしめる腕に力がこもる。
「壱成?」
「……そっちのほうがいいに決まってるだろ」
「……あれ?」
おかしいな。そんなつらい思いをお前がするのはだめだ、みたいな流れを期待してたのに。
「怪我するほうがつらいに決まってる。治るまでもずっとつらいだろ。今日みたいにストレスもたまる……」
「うーんと……俺はさ。俺より壱成のほうがつらいだろって言いたかったんだよ」
「俺はどこも痛くないし元気だ。なにもつらくない」
「そうじゃなくてさ……。心が痛いだろ……俺よりずっと」
壱成の頭を優しく撫でて頬にキスを落とす。何度もキスをくり返しながら俺は伝えた。
「だからさ。俺のストレスにまで、壱成が心痛めんなってこと」
わかった? 耳元でささやき、そのまま耳にキスをすると壱成がふるっと身体を震わせた。可愛い。
「壱成。今日も……だめ?」
背中の打撲を見て、昨日あんなに青ざめていたのに無理だろうな。そう思いながらも返事に期待した。
俺は、早く壱成を愛したくてたまらない。
やっと壱成が俺のものになったのに、愛し合えないなんてつらすぎる……。
しばらく黙り込んでいた壱成が、俺の首元に顔をうずめた。
「京……」
「うん」
「すまない……」
「……うん。いいよ」
昨夜は俺が眠るまでずっと顔色悪く不安そうだった。仕方ない。俺は壱成の背中を撫でた。
「背中の打撲が……想像以上にひどかった……」
「うん……だな」
「だから……どう見てもお前は元気じゃないのに……」
「うん。……ん?」
「…………すまない。もう俺も限界なんだ。京……抱いてほしい」
「い……壱成っ」
まさか抱いてほしいと言われるとは思ってなかった。
あっても、仕方ないな、くらいかと……。
まさかの『抱いてほしい』の言葉に一瞬で頭が沸騰する。身体が熱い。
「俺の中を京でいっぱいにしてくれ……。ノブじゃなく、京に抱いてほしいんだ……。ずっと……ずっと京に抱かれてみたかった」
そう言って俺の髪に指を差し入れサラサラと梳きながら、壱成は首元にうずめた顔を上げて俺を見つめた。
「このハニーベージュの髪で、青緑の瞳で、俺を抱いてくれ……」
「壱成……っ。もう、もうこれからはずっと京だよ。ずっと俺だから」
「京……」
「壱成、愛してる」
たまらなくなって唇をふさいだ。
「……ン……っ、……京……」
「壱成……っ」
「ん……、愛……してる、きょう……っ……」
壱成は首に腕をまわし、きつく抱きついてくる。
キスをしながら“京”と呼ばれる。愛してると言われる。本当に夢みたいで幸せだ……。
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