4 / 18
第4話 罰ゲーム
「こっちだ」
佐久間はマロンのあったビルを、入ってきた方向とは逆の裏手に出る。
「どこ行くんだよ」
後をついていく森下が、不安そうな声になる。
行く手が暗い。
何かありそうな場所じゃない。
ビルとビルの狭間だ。
「この裏のビル、取り壊しになるらしいからな」
「廃墟ビルか? やめてくれよ。俺、暗いところ嫌いなんだから」
「罰ゲームだから、諦めろ」
狭いビルの狭間で、突然佐久間が森下を壁に押しつける。
「な、なんだよ……急に」
「怖いのか?」
佐久間がクスっと笑って、森下の股間に手をのばした。
「あっ、こらっ、何すんだよ。ヤらねえって約束しただろっ、やめっ……」
佐久間は強引に森下のズボンの前を開くと、モノを引っぱり出して、握る。
「安心しろ。突っ込んだりしないから」
佐久間は自分のズボンの前も開いて、モノを取り出し、森下の手を導く。
森下は恐る恐る、それを仕方なしに握る。
「罰ゲームだから、ゲームだ。先に相手をイかせた方が勝ち。お前が勝ったら、何でも願いごと聞いてやるぜ」
「抜き合いかよ……」
「別にタチネコ関係ないだろ?」
「確かに」
突っ込まれないなら、まあいい。
誰か引っかけたら、知らないやつとヤるつもりだったんだから、相手が佐久間でも大差ない。
森下は諦めて、それをしっかり握り直す。
握り慣れた自分のモノより、ひとまわり大きい。
こんなところまで、負けているのが情けない。
どちらからともなく、手を動かし始める。
自分が扱いているのと、違う感覚が返ってくるのが違和感がある。
森下は早く佐久間をイかせたいので、かなり強く擦っているが、佐久間はゆるやかにゆっくり擦っている。
いくら強く擦っても、ゆるやかにしか返ってこない快感がもどかしい。
「そんなんじゃ、俺、イかねえぞ」
「強けりゃいいってもんでもないだろう」
そんなはずはない。
強く擦ればそれだけ早くイくのは、自分で擦ったことがある男は誰でも知ってる。
森下はいつも自分でヤってる時のことを思い出して、追いつめるように擦ってみる。
くっ、と一瞬小さく佐久間が、苦悩の表情を浮かべたのを見て、森下はニヤっと笑う。
「別に我慢しなくていいんだぜ」
「お前もな」
森下はまだ余裕だ。
この程度の刺激だと、いくら続いてもイかない自信がある。
佐久間は本当にいつもこんな調子で、自分でヤってるんだろうか?と不思議に思う。
まあ、これから追い上げられるのかもしれないが……
「さすがに……それだけ擦られると、んっ、くっ……イきそうだな」
暗闇に目が慣れてきて、見える佐久間の苦悩の表情が、妙にセクシーだ。
ほぼ、同じ目線。
わずかに佐久間のほうが、高いかもしれない。
「イきたきゃ、イきたいって言えよ。俺は焦らさねぇぜ」
「もう……少しっ、んっ」
佐久間は少し息が荒くなっている。
心なしか、目もうるんでいるように思う。
ゆるやかに動いていた佐久間の手が、ほんの少し強くなり、森下も心地よい快感に酔いしれる。
他人の手は久しぶりだ。
突っ込んだことはあっても、手で扱き合うなんていう、青臭いことは久しくしてない。
優しく触れられるのは、新鮮だ。
イかせる気があるのかないのかわからない。
佐久間の先端から溢れ出た先走りが、森下の手を伝っていく。
森下はそのぬめりをすくって、親指の腹で先端部分の周辺をくりくり刺激する。
男なら、誰でも喜ぶ場所を、ピンポイントで。
「うっ……そ、こ……」
佐久間の声がつまる。
そろそろ寸前だろう。
扱くスピードを上げて、裏筋にそって縦に親指でぬるぬると往復する。
これで、俺はいつもイく、と森下は自分の独り寝を思い出す。
フィニッシュは、裏筋から先端の割れ目まで、親指でぐりっと擦りながら……
森下は自分でヤるのとは位置が逆なので、頭の中で変換している。
イく時はずしたら、悲しいからな。
しっかりイかせてやろう。
佐久間が森下の首に片手を回して抱きついてくる。
まあ、抱きつくぐらい許してやる。
俺は壁を背にしてるけど、佐久間は突っ立ってるだけだから。
森下の肩口で、佐久間がうめき声を上げた。
「青葉……」
「呼ぶなっつたろ」
突然耳元で名前を呼ばれて、森下は動揺する。
色っぽい声出しやがって。
自分も扱かれていたことを思い出して、佐久間の指先の当たっているところが、急に熱を帯びてくる。
「降参、だ……イかせてくれ」
苦しげな掠れた佐久間の声が、耳をかすめて、背筋が一瞬震える。
じわっと、触られているところの快感が広がり始める。
森下のほうはやっと快感の入り口だ。
「イクっ……」
森下の肩を掴んでいる佐久間の指先に、ぎゅっと力が入った瞬間に、一直線に裏筋を擦りながら絞り上げてやる。
佐久間は腰をぐっと突き出しながら、びくんびくんと二、三度痙攣した。
ぱたぱたと、コンクリートの上に、液体が落ちる音。
額を森下の肩に預けながら、佐久間は荒い息を整える。
「俺の負けだ……お前のお願い、聞いてやる」
この時、佐久間が一瞬フっと笑みを浮かべたのを、森下は知らない。
ち、き、しょう……
なんで俺一人だけ、こんな恥ずかしいことになってんだ……
森下は、自分の頭の足りなさを呪った。
このゲームは、先にイかせた方が勝ちじゃない。
先にイった方が勝ちだったんだ……
佐久間の繊細な指先は、まだ森下のモノの急所をぬるぬるに這い回っている。
それも、絶対にイけないような優しさで。
水滴が一滴ずつコップにたまっていくように、じわじわと増していく快感。
指先が通り抜けたところの神経が、むきだしになっているように、じん、と痺れる。
ともだちにシェアしよう!