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第5話 お願いしてしまった
「は、やく……、もっと……」
「もっとなんだ? 気持ちよくなりたいか?」
耳元でその声は反則だ……
なんで俺だけ一方的に、いじめられてるんだよ……
「仕方ない。俺の負けだから、サービスしてやろう」
佐久間はすっと、森下の前にひざまづく。
「あっ、ひ、あ、やめっ、んんん」
生温かい感触に突然すっぽり包まれたと思った瞬間に、ぬりぬりと先端で熱い舌がうごめく。
ゆっくりと佐久間の頭が森下の股間で動くたびに、背筋に快感がぞわっと広がる。
気持ちよすぎる……
狂いそうだ。
何も考えられなくなっていく……
ちゅぷ、と水音をたてながら、佐久間の唇が優しく森下のモノを扱く。
内部で舌は、縦横無尽にねっとりと絡みついている。
「あ、も、ダメっ……ああん、ああん」
森下は掠れた涙声になって、腰をうねうねと振っている。
イきたいのにイけない。
あと一歩というところで刺激が足りない。
絶頂は目前なのに、気が遠くなりそうな気持ちよさが、与え続けられる。
イきたい……
森下は目を閉じて、もうただひたすら快感を追いかけている。
佐久間の舌先が与えるほんのわずかの刺激を、全部追いかけて、絶頂の一歩手前をさまよっている。
「も、でる、や、ああ……」
腰から背中に這い上がるような快感に、森下は身体を支えていられなくなる。
佐久間はやっと口を離して立ち上がり、森下の腰に片腕を回して、がっちり支えてやる。
再び指先がぬるっと這い回る。
舌で与えられた快感よりは、ほんの少し強く。
腰の中に蓄積した快感が、いまにもあふれ出しそうになった時。
唇を何かがそっとかすめて、森下は閉じていた目を見開いた。
首を少し傾けた佐久間の顔が、至近距離にある。
触れるか触れないかの距離で、唇がかすめられる。
「舌、出してみな」
低い囁きに逆らえずに、森下は舌をほんの少しだけ出す。
その先端に、温かく湿った佐久間の舌が、くすぐるように触れた。
背筋が痺れる。
触れているのは、ほんの先端だけなのに。
少しずつ少しずつ、舌が絡めとられていく。
森下は、目を閉じた。
触れそうで触れないと、その先を狂おしいほど求めてしまうと、初めて知った。
「青葉……」
濡れた温かい唇が、重なる。
また少しずつ深く。
優しく擦りつけられる、柔らかい唇。
だけど、やっぱり足りない。
もどかしい。
触れるだけじゃ、済まなくなる。
唇が離れると、ふっと心許なくなる。
そこだけが寒いような気がする。
抱きかかえられて、下半身に与え続けられている刺激は、もう何をされているのかよくわからない。
ただその部分から、快感がトロトロわき続けているだけだ。
佐久間の親指の腹が、裏筋を往復するようになでると、下半身が勝手にぶるぶる震えだした。
溢れる。
もう溢れる。
「も、お願い……あ、あああん、あ、あ」
「イきたいか」
「イきたい……んんあっあっ、さ、くま」
「慎だ。呼んでみな」
「慎……ひ、あ、もう、お、ね、がい」
森下は佐久間の首に両手を回して、ぎゅっと抱きついて全身を震わせている。
佐久間は扱く手を今度は徐々にスピードアップしながら、裏筋の中心を親指でぐりぐりし始める。
森下がソコでイクということは、さっき本人が教えてくれた。
親指をくり、と動かすたびに、森下の身体が腕の中で小さくはねる。
「慎っ、慎っ、お願いい……ひっ、いっ、イかせてえ……」
泣き声を上げた森下の耳元に、佐久間が囁く。
「最高のタイミングでイかせてやる」
重なる唇。
激しくなる指の動き。
腰をせりあがるしびれるような快感。
森下の目から、涙がこぼれ落ちる。
唇の隙間から温かい舌が侵入する。
気持ちいい……
身体の中心から、こみあげるように、渦のように今にもあふれ出しそうな何か。
イク……
「んっ…… ん、んっ! んー! んーーっ!!」
イク……イク、イク! イクー! イクーーっ!!
悶えながら、森下の身体がのけぞる。
舌が触れあって、舐め回されて、深くかき回されて、頭が真っ白になって……
脳内で十回ぐらいイクーっ!と叫んだ時に。
最後の刺激がぐりぐりっと、強烈に与えられる。
佐久間にしがみつきながら、森下の身体がびくびくっと大きく跳ねる。
身体のどこもかしこも、一気に全部痺れていく。
唇を貪られながら、何度も搾り取るように扱かれて、絶頂の波が揺り返す。
熱いほとばしりが、何度にも分けて身体から飛び出す。
出る……
まだ出る……
まだ……
腰が溶けそうだ。
舌も溶けそうだ。
びくびく痙攣していた森下の身体から、がくん、と力が抜ける。
佐久間は両腕で、しっかり森下を抱きしめる。
「慎……」
「大サービスしといたぞ」
「バ、カヤロー……」
まだ続く快感の余韻に森下が浸っている間中、佐久間は優しく頭をなでてやっていた。
森下は今日、新たな新事実を知った。
ナニは強く擦った方が早くイクが、弱い刺激を蓄積すれば頂点の快感は数倍だ。
つまりX軸が時間でY軸が強さとして、快感曲線は……
タクシーの中で、この世で最もどうでもいいグラフなど脳内作成しているのは、頭から今日の記憶を追い出すためだ。
気を抜くと『お願いい……ひっ、いっ、イかせてえ……』という瞬間が生々しく甦って、ガラスに頭を打ちつけて死にたくなる。
泣きながら他人に何かをお願いしたのは、生まれて初めてだ。
初めてのお願いの内容が、あまりにも情けない。
よろよろと自宅に帰り、スーツを脱ぎ捨て、そのままベッドにごろん、と横たわる。
執拗に刺激を与え続けられたモノは、まだ佐久間の指の感触を生々しく覚えていて、しびれたように余韻を残している。
つまり、タチ同士だと、こういうことになるか、と森下は改めて実感した。
攻め争い、みたいなものである。
今日のは、明かに負けだ。
攻め争いに負けると、一方的にヤられることになってしまう。
悪くはないんだけどな……たまには一方的にヤられるのも。
ただひたすら快感に集中できる。
認めたくはないが、ヤられていて我を失ってしまったのは事実だ。
森下は過去に何度か、バーで口説いた男と寝たことがある。
その場合、森下がただヤっただけだ。
初対面で口でしてくれる男は少ないし、キスもオマケ程度にしかしない。
まあ、恋にも発展しなかったし、二度目もなかった。
所詮、突っ込んだだけでは、相手のことは何もわからない。
佐久間のように、積極的にあれこれしてくれた男は、初めてだった。
最高に気持ちよかったのはいいのだが、なんとなくもやもやする。
やっぱりヤるからには突っ込まないと、満足できないのだろうか。
それなら、あいつも今頃もやもやしてるだろうな……と思いながら、森下は自分のモノに手を伸ばす。
いつものように、自分で抜いたら、スッキリするだろうか。
あんな焦らすようなやり方じゃなく、思い切り扱いて、一気に出すほうがスッキリするのではないか。
まだ余韻の残る自分のモノは、強い刺激を与えるとすぐに回復する。
しかしすぐに、何かが違う、と感じてしまう。
味気ない。
ローションを少し手にとり、先端に指先で触れてみる。
ぬるり、とした弱い刺激に、身体の奥が熱くなる。
そう、こんな感じだった。
舐め回された時は、それだけでも爆発寸前まで追いつめられた。
いつしか、森下は、夢中で佐久間にされたことを再現していた。
弱い刺激を我慢し続けていると、思わず声がもれて悶えてしまう。
極限まで我慢してイった時には、佐久間の名前まで口走ってしまった。
一人エッチで悶えて声が出てしまうのなんて、初めてだ……
冷静さが戻ってくると、何やってんだろ、と情けなくなってくる。
しかしそれから土日の間、森下は何度となく、佐久間を思い出しては同じことを繰り返してしまったのだ。
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