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第9話 デートに誘われた

 つき合う、ということになったものの、忙しいのか佐久間からの連絡はなかった。  まあ、しょせん本命を見つけるまでの、つなぎということだろうか、と森下はあまり期待しないようにしていた。  つき合うと言っても、前のようにたまたま会ったら、気軽に抜き合う程度のことを言っているのかもしれない。    そして、金曜日はいつものように仕事が終わったらディープブルーに向かった。  そこにいれば、必ず佐久間は現れるだろうと思っていた。  しかし、いつもならとうに姿を見せる時間になっても、佐久間は現れない。  今までなら適当に好みのタイプの男を見つけて、楽しく過ごしていたところだが、そんな気にもなれず森下は時計ばかり見ていた。    もう九時……か。  仕事が忙しいんだろうか。  森下は携帯を手に、店の外に出た。  いらいらして待つぐらいなら、連絡してみればいい。  来ないと分かっていれば、他の男と遊んでいてもいいのだ。  でも、来るのなら、佐久間を優先しようというぐらいの気持ちはあった。    電話の呼び出し音が鳴ると、少し緊張する。  森下はプライベートで人に電話をかけるのがあまり得意ではない。  まして相手が仕事をしていて、邪魔をしてしまう可能性がある時は、尚更だ。  5、6回コールが鳴って、諦めようかと思った瞬間に佐久間が電話に出た。 「悪い、ちょっと待ってくれるか」    電話越しに、誰か他の人が、英語をしゃべっているのが聞こえる。  やはり仕事中だったのか、と分かったので、森下はもう用事はなくなってしまったようなものだ。  電話の向こうが静かになった。  廊下へでも出たのだろうか。 「悪いな。今ディープブルーか?」 「そうだけど……仕事中だったんだな。特に用事じゃないから切るよ」 「ああ、ちょっと待て」    電話を切ろうとする森下を、佐久間が慌てたように引き止める。 「ほんとに用事はなかったのか?」 「ないよ。忙しいんだろ」 「俺が忙しいかどうか確かめるためだけに電話してきたのか?」    佐久間がクスっと電話の向こうで笑った。  時々、こういう佐久間の挑発的な言い方が、森下のカンに触る。 「悪かったな。忙しいのは分かったから、切るぞ」 「青葉……初めて俺に電話してきたんだから、用はあるだろ。ちゃんと言えよ。俺は超能力者じゃないぞ」 「……びだからっ」    ちきしょう、と森下は声を震わせる。 「……金曜日だから……会えるかと思ったんだ……」    声を絞り出しながら、森下は自分の気持ちに気づいてしまった。  佐久間に会いたかったのだ。  ただ、それだけだ。 「あと、三十分ぐらいで終わらせるから、待てるか?」 「終電まではここにいる」 「分かった。必ず行くから」    電話から一時間以内に、佐久間は現れた。  そして、少し息をきらせて店内を見回すと、まっすぐに森下のところへ駆け寄ってきた。 「今日は遅くなっても構わないんだろう?」 「まあ、ここからならタクシーでも帰れるし」 「OK。だったら少しゆっくりしよう」    佐久間は目標が決まっているように、足早に歩いていく。  森下はだまってそれについて行く。  佐久間は駅に近いシティーホテルに入ると、さっさとチェックインカウンターに向かってしまった。  ひょっとしてラブホ……と想像していた森下は少し驚いている。  ロビーの広い、そこそこのランクのホテルだ。    ルームキーを手にした佐久間は、まるで出張の泊まりのように森下を連れて、堂々とエレベーターに乗り込んだ。  まあ、スーツを着たビジネスマン二人が同室で泊まる、ということはめずらしいことではない。  部屋に入ると、落ち着いた雰囲気のツインルームだった。  佐久間を上着をハンガーにかけ、ネクタイを緩めると、ドサっと片方のベッドに腰をかける。 「突っ立ってないで、来いよ」    うながされて、森下はあわてて自分も上着を脱ぎ、遠慮がちに佐久間の隣に腰をかける。  抱きしめられて、佐久間のコロンの香りがすると、それだけで胸がドキドキする。  本当の恋人同士みたいだ。  高層階の窓の外には、夜景が広がっている。 「もったいねえな……こんなホテル。ヤるだけなのに」 「ちょっとゆっくりしたかったんだ」    佐久間は森下を抱きしめたまま、ベッドにごろん、と横になる。  一緒に横になった森下の髪をなで、嬉しそうに目を細めて顔を見る。  森下は、なぜかいたたまれない気分になって、顔を赤らめた。 「服……シワになるぞ」 「ああ……そうだな。シャワー浴びるか?」 「どっちでも」    佐久間が動こうとしないので、森下は起きあがって先にバスルームに飛び込んだ。  まだキスもしていないのに、甘すぎる空気に動揺してしまう。  これからさんざん焦らされて、腰が痺れるようなあの愛撫が待っているんだろうか。  ただ抜き合うだけの、つなぎのつき合いだと思い込もうとしていた数日間が、簡単に打ち砕かれてしまいそうだ。    ホテルに備え付けのバスローブをはおって、部屋に戻ると、佐久間は目を閉じて寝ているようだ。  疲れているんだろうか……と顔をのぞきこむと、突然抱きしめられた。  「ほら。お前もシャワー浴びてこい。目が覚めるから」    森下が寝ころんだままの佐久間のシャツのボタンを外し始めると、佐久間はまた嬉しそうにそれを見上げている。  森下は、まったりとした空気がどうしてもいたたまれなくて、無理矢理佐久間の服を脱がせると、バスルームに押し込んだ。  そして、すぐに出てきた佐久間の、腰にバスタオルを巻き付けただけの全裸を見て、また動揺する。  濡れた前髪が額に落ちていて、セクシーだ。 「スッキリした」    佐久間は森下の横にごろん、と横になる。 「疲れてるんだろ」 「ちょっとな……ここんとこ忙しいんだ」 「俺がしてやるよ。今日は」    森下は身体を起こすと、佐久間の下半身に顔を伏せた。  少し大きくなり始めていたモノが、口の中で瞬く間に硬度を増す。

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