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第10話 それぞれの過去
佐久間が頭に手を置き、そっと髪をなでてくる。
少し照れたような余裕のない顔で、佐久間は森下を見ている。
できるだけ、ゆっくりと攻めた。
あんな風にさんざん焦らしてイかせるのは、佐久間自身がそうされるのが好きなのではないかと予想したのだ。
急所を微妙に外しながら、じんわり攻め続けると、佐久間が切なく息を漏らし始める。
「青……葉……うっ……」
「好きだろ、こういうのが」
時々舌で急所を通り抜けると、ぴくん、と腰が震える。
「もう……いい、出る……手でいいから」
うめくように佐久間が腰を震わせたので、森下は口を離し、指でゆるく扱いてやる。
まだ、イかせるつもりはない。
こんなもんじゃなかった。
声を上げてしまうほど、焦らされて、泣かされた記憶が甦る。
「青……んっくっ」
耐えるような表情で、佐久間が腕を伸ばしてくる。
「キス……してくれ」
森下はクスっと笑って、唇をすっと触れ合わせて離す。
恨みがましそうな、佐久間の表情。
「焦らされるの、好きだろ」
森下がニヤっと笑うと、佐久間は身に覚えがあるので、バツの悪そうな顔になる。
「焦らす、のは、好き、だが……」
下半身の刺激に我慢できない、というように佐久間が森下の頭をつかまえる。
「お前には、情熱的にイかされてみたい」
耐える表情の隙間で、佐久間が笑みを浮かべる。
「もうイきたいのか?」
「お前を押し倒したいのを我慢してるんだ。一回抜いてくれ」
佐久間が真剣に懇願するので、森下は手の動きを強めてやる。
唇を重ね、リクエストに応えて熱烈なキスを何度もしてやる。
舌を絡ませると、背中に佐久間の指が強く食い込み、下半身が小刻みに震える。
そろそろだな、と舌をきつく吸いながら、最後の刺激を与えてやると、佐久間は下半身をのけぞらせて達した。
ゆるやかに舌を絡ませていると、余韻の中で佐久間の腰が何度もびくんと反応する。
キスの合間に、佐久間の吐息が漏れる。
佐久間は放ったモノをバスタオルでぬぐうと、身体を起こして森下をベッドに押し倒した。
「交代だ」
まだバスローブをはおったままの森下の前をはだけると、いきなり乳首に舌を這わせる。
「ちょ、やめっろって、そんなとこ……」
「俺は、乳首フェチなんだ」
「はあ……?」
森下は思わず呆れた声を出して、佐久間の顔を見る。
「突っ込む以外のことは我慢してくれ」
佐久間は有無を言わさず、森下を押さえつけて、乳首に吸い付いた。
「あ、う、んっ、やめろって……」
「少しは感じるだろ? 我慢しててくれ」
佐久間は本当に嬉しそうに乳首を攻めている。
森下は諦めて目を閉じた。
胸にある、佐久間の頭を抱きしめる。
くすぐったいような、甘ったるい痺れが背中に広がる。
執拗に優しく乳首を舐め回されている内に、いつの間にか息が乱れ、追いつめられていく。
「慎っ、あっ、あんっ、んっ」
「お前、乳首敏感じゃないか」
「う、うるさいっ、あ、ああんっ」
きゅっと乳首に吸い付かれ、反対側の乳首も指で攻められて、森下は小さくのけぞった。
実のところ、このままイけるんじゃないかと思うぐらい、乳首が気持ちよくて溶けそうだ。
「こんなに濡らして……」
乳首を攻められながら、ゆるゆると下半身を扱かれると、ふたつの快感が合わさって今にもイきそうだ。
佐久間はやっと乳首を開放すると、森下の股間に顔を近づける。
舌を出し、焦らすように優しく舌先でモノの先端を舐め回す。
森下の腹の上には、透明な液が滴って、水たまりのようになっている。
それを指ですくいとると、佐久間はそっと森下の後穴に指をすべらせる。
びくっ、と森下の身体が緊張した。
「そこは、やめ、ろ……」
「指だけだ。俺のを突っ込んだりはしない」
佐久間は森下のモノを口に含み、激しく舐め回しながら、指を一本後穴に突っ込んだ。
「やめっ、ああっ、やめろっ」
森下はついに怒って、佐久間の髪を引っぱる。
佐久間はすずしい顔をして、後穴の中を指で探りながら、身体を起こし、森下の唇をふさぎにきた。
悶えるように嫌がる森下を押さえ込んで、中を探り、急所を探り当てる。
びくん、と森下の下半身が跳ねた。
「じっとしてろ。これ以上のことは絶対しない。ジェルもコンドームも持ってきてない」
森下を安心させるように、佐久間は頭をなでる。
森下は諦めて、ぎゅっと目を閉じ、身体の力を抜こうとするが、身体が震える。
中で動いていた指が出し入れされると、気持ちが悪くなってくる。
「慎……それ……嫌だ。お願い」
「こうされるのが嫌なのか?」
佐久間は確認するように、指をゆっくり出し入れする。
森下が、身体を震わせて小さくうなずいた。
「……怖いのか?」
佐久間が動きを止めたので、森下は目を開ける。
「……怖い」
目のふちがじわっと熱くなる。
「これは?」
佐久間は、指を奥まで入れたまま、指先だけで中を探る。
「それは……大丈夫」
指が中で動いているだけなら怖くない。
出し入れされると、突っ込まれた時のことを思い出して嫌なのだ、と森下自身も気づく。
佐久間にぎゅっと抱きついて、指先の感覚に集中してみる。
時々くりっと刺激される箇所が、じん、と痺れて、得体の知れない快感が生まれる。
「慎っ……そこ……」
佐久間はよしよし、とあやすように頭をなで、優しくキスをしながら、中を探っている。
とろけそうなキスに溺れていると、身体の中で擦られている場所から、快感が広がり始める。
佐久間は、少しずつ強く刺激しながら、前も扱き始めた。
森下は快感に溺れ始めている。
「あ、あんっ、あんっ、そこっ、もっと」
「こっちか?」
佐久間が前を扱く手を少し強めてやると、森下がいやいや、と首を振る。
「こっちだな?」
後孔の中の急所をぐりっと強く抉ると、森下が小さく悲鳴を上げた。
腰がぶるぶる震えている。
「イくか?」
うんうん、と森下が泣き出しそうに喘いでいるので、佐久間はキスをしながら追いつめてやる。
今日は焦らさない。
「あ、やっ、イクっ、慎っ慎っ、イクぅっ」
一気に前も後ろも急所を攻めてやると、がくがくっと魚のように跳ねて森下は達した。
「ああ……んんっ、あっ、まだっ」
余韻の中で、下半身をひくひく痙攣させて、森下の目から涙がこぼれおちる。
佐久間は指をそっと引き抜き、森下に腕枕をするように抱きしめた。
これ以上はしない、という意思表示である。
「青葉……まだ怖いか」
森下は腕の中で小さく首を横に振る。
「ここまでなら、許す」
少しふてくされたような、照れたような小さな声だ。
気持ちよくて乱れまくったので、反論できないのが、ちょっと悔しいと森下は思っている。
「俺……突っ込まれるのは、ほんとに怖いんだ」
「嫌な経験でもあるのか」
「……ある。一度だけ」
「怖い思い、したのか?」
「死ぬほど痛かったんだ。病院行って、処置してもらう時、痛くて気絶した」
佐久間は小さくため息をつくと、ぎゅっと森下を抱きしめた。
「俺もなあ……突っ込まれるのは怖い」
「慎に突っ込もうなんて奴、いるのか?」
「俺、二年前までオーストラリアにいたからな。向こうのやつから見たら、俺なんて可愛い子供に見えるんだよ」
ああ、なるほど、と森下は納得する。
マッチョなハードゲイたちの姿が想像できる。
「逃げ回ってたなあ。向こうでは恋人はできなかった」
抱き合って、静かに話をしていると、気持ちが落ち着いてくる。
佐久間の求めているものが、少しだけ、見えたような気がする。
突っ込めるとか、突っ込めないとか、そんなことより、こうやって抱き合って穏やかに過ごせる相手がいればそれでいいんじゃないのか。
それは、すごく大事なことなんじゃないか、と森下は思えてくる。
どちらからともなく、キスをする。
森下が求めれば、佐久間はただ受け止める。
ねだれば、舌がすべりこんでくる。
心地よくて、いつまでも離れたくなくて、森下は佐久間に全身で甘えた。
「俺、明日仕事なんだ」
「帰るのか?」
寂しい、とはっきり顔に書いてあるような森下の表情に、佐久間は苦笑する。
「7時には起きるけど、いいか?」
「いいよ、俺は明日休みだから、なんでも」
「なら、もう一回頑張るか?」
「もういい……慎、疲れてるだろ。このままでいい」
飽きるほど、キスをして抱き合って眠った。
つなぎのつもりでつき合いだした佐久間との一夜は、森下にとって過去の誰よりも恋人らしい時間だった。
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