部屋に響いたインターフォンに、起き上がろうと試みる。 　たぶん、押下したのは鞍崎だ。 　電話で頼んだものを届けに来てくれたのだろう。 　引き摺り起こした身体に、頭を鈍器で殴られているような痛みが続き、のそのそと布団の中へと逆戻りした。 　もう少しだけ頭の痛みが引いてからにしようと、ベッドの中で丸まり、瞳を閉じる。 　昨夜からの高熱で身体が怠く、頭痛が酷かった。 　常備薬など置いていない俺は、睡眠で体力を回復するしかなく、昼過ぎにやっとの思いで病院に行き、数分前に処方された薬を飲めたところだ。 　何度も鳴り響いたマコトからの着信は、俺の頭痛を酷くした。 　体調が悪いなどと伝えたら、あいつのコトだ、仕事を放り投げ看病しに来かねない。 　マコトからの連絡は、完全無視を決め込んだ。 　鞍崎からの着信は、急用だと不味いと電話を取る。 　俺の耳に届いたのは、心配げな鞍崎の声だった。 「大丈夫か？ なにか欲しいものあったら、夜にでも買ってくけど？」 　自分から誰かに甘えるなんて出来ない俺の性格をわかった上で、一応の心配の言葉と、あっさりとした問いかけをしてくる鞍崎。 「大丈夫だ…ゲホっ、……ごほ……っ」 　声を発した瞬間、刺激された喉が反射的に咳を出す。 「大丈夫じゃないだろ。こんな時くらい頼ったらどうなんだよ？」 　俺が罪悪を感じないよう、あえてさらりと問うてやったのにと、鞍崎の言葉が呆れを纏う。 「伝染した、けほっ……くねぇの」 　はあっと、電話越しでもわかるほど盛大な鞍崎の溜め息が、こちらに届く。 「……じゃ、玄関前に届けてやるよ。それなら文句ないだろ？」 　なにかを頼まなければ鞍崎は引かないと感じた俺は、その言葉に甘え、食べ物と冷却シートの購入を頼んでいた。 　―― ガチャンっ 　玄関の開錠音が、部屋に響いた。 　痛む頭に疑問符が浮かぶも、考えるコトすら億劫になる。 　玄関扉が開く独特な音の後、静かな足音が近づいてきた。 　掛け布団の上から、ぽんぽんっと肩の辺りを叩かれる。 「柊……？」 　柔らかなマコトの声が、聞こえた気がした。 　丸まっていた身体を伸ばし、頭から被っていた布団をずらし、瞳を覗かせる。 　ぼんやりと霞む俺の視界に、スーツ姿のマコトの顔が映り込む。 「ぉま…、…っ？」 　喉を衝く、いがらっぽい感覚に、掛け布団でガードしながら、軽く咳き込む。 「ごめん。心配で……」 　マコトの手が俺の頭に触れ、柔らかく髪を撫でた。 「鞍崎さん、すいません。冷却シート、貼ってもらえません？」 「ん、ぁあ」 　キッチンに向け放たれたマコトの声に、鞍崎の返事が返ってくる。