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第5話 信じているけど、欲しくなる
「ほら。柊は、ベッド入って」
抱き着いたままの俺を引き摺るようにベッドへと向かう。
絡ませた腕を剥がされてしまい、俺は渋々ベッドに座った。
恥ずかしい姿を見せてしまったと、じわりとした不安が胸に蔓延る。
理由のない焦燥が、俺を甘えたにする。
弱っている身体は、心を人恋しくさせ、無性にマコトの温もりを感じたくなった。
首周りの依れた寝間着代わりのシャツの襟ぐりに指をかけ、鎖骨を曝した。
「な……っ?!」
俺の不可解な行動に、戸惑いと苛立ちの交じる声を発するマコト。
「きす、してくれよ?」
マコトを見上げ、強情る俺。
誘惑に抗えない本能と、俺を養生させなくてはいけないという理性が、マコトの中で喧嘩している。
頭をバリバリと掻き毟るマコトに、俺は言葉を足した。
「ここに痕があると、お前のもんだって気がして…安心するんだ……」
信じてる。
お前の気持ちを疑ったりなんて、していない。
でも、欲しくなる。
目に見える、なにか。確証が、欲しくなるんだ。
愛されているのだと、この身体に思い知らせて欲しくなる……。
ダメか? と、上目遣いで強情る俺に、マコトが折れた。
ふうっと気合いを入れるように、息を逃がしたマコトの顔が、俺の鎖骨に近寄る。
「ぁ、待……」
すぐ傍まで迫ったマコトの顔を、肩に両手をかけ、押し止 めた。
きゅっと眉間に皺を寄せたマコトの瞳が俺を見やる。
「ふろ…、入ってなかった」
「はぁあ。もうっ」
言葉に被さるように吐かれた唸り声と共に、俺の鎖骨が、がぶりと噛まれた。
噛みつき舐められた後、しっかりと吸いつかれたそこには、真っ赤な痕が残る。
顔を離したマコトは、綺麗についた所有の証に、満足げに指先を滑らせた。
「1日や2日入ってなくたって…、汗臭くたって、気になんねぇよ」
アホか、と小馬鹿にする言葉が続き、呆れたと言わんばかりの空気を溢れさせながら、マコトは腰を上げた。
傍 らに立つマコトを見上げる。
キッチンに戻ろうとするマコトの袖口を掴み、ずるずると壁に寄り、ベッドの上にスペースを作る。
「だぁめ。一緒には寝ないよ」
無言でかけた添い寝の誘いは、軽くあしらわれてしまった。
わかりやすく落ち込んだ俺に、マコトの手が柔らかく頭を撫でてくる。
「……オレ、我慢できる自信ねぇの」
ちゅっと冷却シート越しに唇が落とされ、眉尻を下げた困り顔で笑みを浮かべるマコトに、俺は渋々目を瞑った。
1度、傍を離れたマコトは、スケッチブックを手に戻り、ベッドを背に座り込む。
「寝るまで、ここにいるから」
背中越しに声をかけ、マコトはゆるりとスケッチブックを開く。
傍に居る気配は感じるが、どこか触れていたくて、俺はスケッチブックを持つマコトの左手に手を重ねた。
お返しだというように、スケッチブックを掴んだままのマコトの小指が、俺の掌を擽る。
きゅっとそれを握り、シャッシャッと鉛筆の走る音を聴きながら、俺は瞳を閉じた。
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