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第6話 嫌な気配に叩かれる肩 <Side 真実
行くなと言われたからと、大人しく……なんて、出来るわけがなかった。
商談先から会社には戻らず、そのまま柊の家に向かった。
近場のコインパーキングに向かう際、柊のアパートの外階段を降りてくる鞍崎さんの姿を見つけた。
―― パァッ
道路に降りた鞍崎さんに、小さくクラクションを鳴らした。
音に気づいた鞍崎さんの瞳が、運転席にいるオレに向く。
路肩に車を停め、助手席の窓を開けた。
「柊の所、行ってたんですか?」
「インターフォンは鳴らしたんだけど……」
鞍崎さんの視線を追い、柊の部屋の玄関へと目を向ける。
そこには、レジ袋がちょこんと鎮座していた。
「風邪、伝染したくないからって、玄関先に届けるって約束で。…あれを受け取ったのを確認したら帰ろうと思ってるんだけど」
鞍崎さんの言葉に、オレは助手席の扉を開く。
「乗って下さい。外、寒いでしょ」
悪いな、と素直に助手席に乗り込んだ鞍崎さんと2人で、少しだけ玄関先を眺めていた。
「マコトくんも、営業なんだよね?」
柊の部屋の扉を眺めながら言葉を紡ぐ鞍崎さんに、オレもそこに意識を向けながら声を返す。
「はい。そうっすね」
「俺が帰った後、家に行くつもり?」
質問の意図がわからず、オレは首を傾げた。
「あいつ、内勤の俺でさえ伝染したくないって頑 なだったから、行かない方がいいかもよ……」
困ったように眉尻を下げた鞍崎さんは、オレを引き止めにかかっていた。
柊の気持ちと、オレが門前払いをくらい、落ち込むよりは良いだろうという鞍崎さんなりの配慮だと感じ取る。
「あー……、そうっすよね。オレも、あれ取り込まれたら帰ります」
鞍崎さんの気遣いを無駄にするのも申し訳なく感じ、今日のところは引こうと考えていた。
……が。
会話を交わしたのが、5分前。
玄関が開く素振りが、一向になかった。
「……出てこないっすね。熱で、動けない…、とか?」
嫌な気配が、オレの肩を叩いてくる。
オレは、パーキングにしていたシフトをドライブに入れた。
「すいません。ちょっと移動しますね」
鞍崎さんを乗せたまま、当初の予定通り、すぐ側のコインパーキングへと向かった。
駐車場に車を停めながら、口を開く。
「倒れてたら困るんで、行きます。……出来れば一緒に」
1人で行っても良かったが、2人っきりだと風邪を引いている柊に無理をさせそうな気がして、第3者である鞍崎さんに、お供を頼んだ。
ちらりと向けた視線に、鞍崎さんは小さく頷く。
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