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第7話 なに可愛いコトしてくれちゃってんの
玄関先でレジ袋を拾い、合鍵でドアを開けた。
その音にすら、なんの反応もない室内に、真っ直ぐベッドへと向かう。
こんもりと盛り上がってる掛け布団を、ぽんぽんっと叩き、声をかけた。
小さく丸まっていた塊が、もぞもぞと動き、ぽやんとした柊の瞳が姿を見せる。
熱のせいであろう赤らむ顔に、とろりと蕩けるような視線でオレを見上げた柊。
顔の半分しか出さない仕草が、可愛すぎて堪らなくなる。
なんだよ、なんでこんなにエロいんだよっ。
心の中で、本能がグルルっと荒ぶり始めていた。
目の前の人物がオレだと認識した柊は、ぼんやりしていた瞳を、きゅっと細めた。
なんで居るのだと、荒らげた声はガサガサに嗄れ、反射的に出る咳を布団で抑える。
咳き込んで涙を浮かべた瞳でさえも、オレには目の毒だった。
潤んだ瞳と上気する頬、荒い息遣いは、オレの腕の中で乱れるあの時の姿を彷彿とさせた。
なに考えてんだよ、オレっ! 相手は、病人だぞっ。
少しでも楽になればと、咳き込んで辛そうな柊の髪を柔らかく撫でる。
指先が触れた額の熱さに、レジ袋の中にあった冷却シートを思い出し、鞍崎さんに助けを求めた。
キッチンに向かうオレの目に、ベッド側の小さな丸テーブルの上、病院で貰ってきたであろう薬の袋と、半分ほど減った水が置かれていた。
きちんと薬は飲んでいるらしいと、安堵する。
パウチの白粥、桃のゼリーにネットに入った冬みかん。
とりあえず、ゼリーとみかんを冷蔵庫にしまい、シンクの縁に両手をつき、深く俯く。
冷静になろうとすればするほどに、艶やかな柊の姿が妄想される。
落ち着け。落ち着けっ、オレの息子っ。
あまりにも節操のない自分の下半身に、情けなくなっていた。
「大丈夫か?」
柊の傍からキッチンへと戻ってきた鞍崎さんが、困り顔でオレを見詰めていた。
「小佐田が心配なんだろうけど、病院にも行ったみたいだし、あとはゆっくり休むしか……」
心の底から心配している鞍崎さんの空気感に、悶々とした欲求を我慢してるだけだなんて言えるはずもなく。
「あ、大丈夫です」
もう、申し訳なさしか出てこない。
オレは、情けない微笑みを浮かべるしかなかった。
―― ぼすんっ
背中に感じた衝撃と、オレを抱く腕。
柊が抱き着いてきたのだと理解するのに、ほんの数秒。
「こいつ……、俺の」
鞍崎さんを威嚇する柊のがさついた声が鼓膜を揺らす。
く、ぅ………っ。なに可愛いコトしてくれちゃってんの~?!
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