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第9話 やらないコトだらけ <Side 柊
「ん……」
引き攣る感覚がある額に、指先を這わせた。
そこには、かぴかぴに乾いた冷却シートが、かろうじで貼りついている。
「あ、起きた? 体調、どう?」
身体を起こし、役目を終えた冷却シートを剥がす俺に、ベッド脇から声が掛かる。
スケッチブックを横に寄せつつ振り返ったマコトの手が、額に触れる。
「ぁあ。寝る前よりは、かなりマシ」
薬と冷却シートのお陰で、身体は思ったよりも楽になっていた。
「下がったみたいだね。なんか食べる?」
腰を上げたマコトは、ワイシャツの袖をまくりながら、キッチンへと向かう。
ぅ、あ……。
冷蔵庫を開けるマコトの後ろ姿に、やらかした記憶が、蘇ってきた。
熱は下がったはずなのに、かぁっと顔が熱くなってくる。
恥ずかしさに、マコトの背中から視線を逸らせた。
床へと向けた視線に、マコトが無造作に置いたスケッチブックが映り込む。
「なんだ、これ? 鞍崎?」
拾い上げたそれには、心配そうにこちらを見詰める鞍崎の姿が描かれていた。
ネットに入った冬みかんを手に戻ったマコトは、スケッチブックをちらりと覗き、口を開く。
「あぁ。そう、鞍崎さんだよ。柊、描いたらムラムラが爆発しそうでさ」
困ったような笑いを混ぜ紡がれたマコトの言葉。
鞍崎を描いたコトに、深い意図はない。
わかっていても面白くない俺は、スケッチブックの中の鞍崎を無意識に睨んでいた。
ベッドの傍で胡座をかいたマコトは、ネットから冬みかんを取り出し、剥き始める。
「キッチンで無になろうとしてたんだけど、そん時に〝大丈夫か?〞って心配された……」
ははっとマコトは、弱く笑う。
「柊のコト、心配したんだよ。心配はしてたんだけど、……」
皮を剥き、1房を捥いだマコトは、俺に向かい〝はい、あ~ん〞と口を開いて見せる。
「自分で食える」
マコトの持つネットから、ひとつを奪い取った。
「でしょ?」
マコトが何を言わんとしているのか読み取れず、みかんを剥きつつ、怪訝な瞳を向けた。
「普段、ぜんっぜん甘えないクセに、やたらと甘えてくるから……。熱でぽやんってなってる柊、可愛かったなぁ……」
うっすらと瞳を細め揶揄ってくるマトコに、俺の瞳が盛大に游ぐ。
「伝染したくないなんて言う割に、可愛いコトばっかするから、オレの理性、何回打ち砕かれたコトか」
ははっと笑ったマコトは、手にしている1房のみかんを口に放り、言葉を足した。
「……オレの理性、殺しにかかってたよね?」
「そんなつもりじゃ……」
なかったが。
嫉妬を剥き出しに、鞍崎に噛みついたのも。
不安に駆られ、添い寝を強情ったのも。
温もりが恋しくて、手に触れたのも。
普段の俺なら、やらないコトだらけだ。
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