小佐田さんの見舞いに行った次の日。 　鞍崎さんは、体調不良で早退した。 　もちろん、その翌日である今日も、鞍崎さんは出社していない。 　オレが鞍崎さんを心配しない……、訳がない！ 　昨日の夕方 ――。 　帰社したオレの目に飛び込んできた〝早退〞の文字。 　山南さんから熱風邪だという情報を仕入れたオレは、小佐田さんの風邪をもらったのだろうと察する。 　終業時間になるやいなや、直ぐに鞍崎さんへと連絡を入れた。 「大丈夫ですか？ なんか買っていきます？ スポーツドリンクとか栄養ゼリーとか……」 「伝染したら嫌だから、来るな」 　まだまだ喋ろうとしていたオレの言葉を遮り、ぴしゃりとシャッターを下ろされる。 　以上だというように、じゃあなと紡がれた声の後、オレの耳許ではプーップーッという機械音が響いていた。 　来るなと言われてしまえば、オレは動けなくなる。 　〝待て(ステイ)〞のコマンドを与えられた大型犬は、ただ黙って待つしかない。 　鞍崎さんに忠実なオレは、大人しく自宅へと帰るしかなかった。 　待てのコマンドを与えられてから１日経った今現在。 　……会いてぇ。 　お腹を空かせていたら困るし、熱が下がらず唸っているなら、冷却シートの１枚でも貼ってあげたい。 　でも。伝染したくないから来るなと命じられているオレ。 　鞍崎さんからのコマンドを守るべきか、それを破ってでも看病しに行くべきか。 　オレの心は、ぐらんぐらんに揺れ動く。 　―― ぽこん……っ 「………てっ」 　間の抜けた音を立て、オレの頭が丸めた紙に叩かれる。 　叩かれた場所を擦(さす)りながら上げた瞳には、呆れを纏う小佐田さんの姿が映る。 「なに百面相してんだよ？」 　ちょっと顔を貸せというように、顎をしゃくる小佐田さんの口許には、マスクが着けられていた。 　療養明けだと一目でわかるその姿に、疑問符が浮かぶ。 　そもそも、家に上がっていないはずなのに、どうやって風邪もらったんだ？