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第17話 なんの解決にもなりゃしない

 腰を上げたオレは、首を傾げつつ、小佐田さんの後を追う。  人目を避けるようにミーティングルームに入った小佐田さんは、椅子には座らず、ドア付近で口を開く。 「なんか悪かったな。鞍崎、風邪引いたの俺のせいなんだよ」  小佐田さんの言葉に、オレは首を捻る。 「マコトと家の前で会ったらしくて、倒れてたら困るって家に来たんだよ」  その時に伝染してしまったのだろうと、小佐田さんは申し訳なさげに眉尻を下げた。  困り顔の小佐田さんは、くるくると丸められ、輪ゴムで留められている筒状の紙を、オレへと差し出す。 「これ、マコトから」  受け取ったそれは、スケッチブックの1頁。  何かの伝言なのかと、輪ゴムを外し、伸ばしてみる。 「はぁ?」  そこに描かれていたのは、きゅうっと眉で八の字を描き、心配そうにこちらを見詰める鞍崎さんの顔だった。 「なんで、あいつ、こん……なっ? はぁ?」  鞍崎さん、可愛いっ!  …じゃなくてっ。  なんで於久がこんな顔、知ってんだよ? なにオレの鞍崎さん勝手に描いちゃってるわけ?  頭の中では、小さなオレが大暴れだ。  動揺を隠しきれないオレは、眉間に皺を寄せ、小佐田さんに食って掛かる。 「なんすか、これ?!」  苛ついた感情のままに放った声に、小佐田さんは面倒臭げに言葉を紡ぐ。 「俺に怒んなよ……。俺が寝込んでる間に描いてたんだよ。深い意味はねぇって言ってたぞ」  わかっている。小佐田さんを詰めたところで、なんの解決にもならず、なんの答えも得られない。 「でもっ」  こんな可愛い顔、あいつに見せたの? なんで? ……もったいないっ。  頭を抱えて、上を向いたり下を向いたりと忙しいオレに、小佐田さんは、むすりと顔を歪めた。 「俺だって、面白くねぇんだよ……」  確かに。面白くないだろう。  於久の描く人物は、基本的にその時、好きな人だ。  食指の動かない人物を、無理に描こうとはしない於久。  それはつまり、この絵は〝於久が鞍崎さんに好意を抱いている〞という結論を導き出す。  消化しきれない嫉妬心に、唸り声が漏れていた。  焦れ焦れの感情が、オレの瞳を潤ませる。

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