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第18話 そんなこと言ってられねぇよ

 小佐田さんは、オレと鞍崎さんの関係を知っている。  鞍崎さんが絡むとポンコツになってしまうオレの本性もバレている。  すべてを知っている小佐田さんの前で繕う必要などない。  オレは、感情のままに涙の滲む瞳で小佐田さんを睨めていた。 「ぁあ、もう。俺を描いたらヤりたくなるから、鞍崎描いて平常心保ってたんだと」  顔を赤く染め、投げ遣り気味に放たれた声は、オレの不安を解消する為に紡がれたものだ。  たぶん、もやもやとする自分にも、心配はないと言い聞かせる意図もある。  気持ちを落ち着かせるために描いたというのなら、於久は鞍崎さんに対して、劣情は抱いていない。  於久の中で、鞍崎さんを描くコトは、犬や猫を描くのと同意と受け取って、間違いない。 「……そうっすか。あいつ、オレの大事な人、動物扱いかよ」  それはそれで、面白くないオレは、むすりと顔を歪めた。  わかりやすい拗ね顔を曝すオレに、小佐田さんは呆れ笑う。 「俺が風邪ひいて寝込んでるって伝えたのお前なんだろ? 教えてくれてありがとうってのも込みらしいぞ」  オレの愛する人を描き、お礼代わりの贈り物にと考えたのか。  でも、こんな顔っ。こんな……っ。  於久が邪な目で見ている訳ではないと知れて良かったが、こんな可愛い鞍崎さんを見たのかと思うと、胸の底がもぞもぞとする。  安堵と苛立ちが綯交ぜられたオレの心は、気持ち悪さを訴える。  小佐田さんは、尻のポケットから長財布を手にした。  中から千円札を2枚ほど抜き、オレへと差し出してくる。 「絵だけじゃ満足できねぇんだろ? これでなんか買って、看病しに行け」  きょとんと札を見詰めるオレに、小佐田さんは言葉を足す。 「あいつに頼んだ買い物の金、返してねぇんだよ……。あいつのコトだから、お前に伝染したくないとか言ってるんだろうけど、見舞いに来てもらえたら、それはそれで嬉しいんだよ」  にやりと笑んだ小佐田さんは、札をオレの胸許に押しつける。  経験者は語る、というヤツか。 「でも、来ても家にはあげないって言われてるんで……」  キューンと鳴いてしまうオレに、小佐田さんは、ふはっと小さく笑いを零す。 「意地張ってるだけだろ。風邪の時は身体も弱るけど、気持ちも弱るからな。顔見たら、そんなこと言ってらんねぇよ」  俺には、弱ってる時くらい頼れとか言うクセに、なに言ってんだか……と、呆れ混じりの愚痴を零す小佐田さんに、オレは押しつけられた札を受け取った。  普段は、クールで冷たい印象の鞍崎さんだが、寂しがり屋なのをオレは知っている。 「あ」  閃いたような声を上げた小佐田さんは、言葉を繋ぐ。 「セックスはすんなよ?」  オレの顔を下から仰ぎ見た小佐田さんは、チッチッチッと人差し指を揺らした。  腕時計へと瞳を移し、早く帰りたそうな空気を醸す。 「俺の風邪、マコトでも丸一日寝込んだからな」  たぶんまだ寝込んでいるであろう於久の所に早く帰りたいのだろう。 「あいつでも寝込むくらいだから、お前でもタダじゃ済まねぇと思うぞ」  ケラケラと笑った小佐田さんは、さらに言葉を紡ぐ。 「てか、伝染んねぇように、お前が対策してけ。伝染したってなったら、あいつ無駄に(へこ)むだろしな」  ぽんっと、オレの肩に手を乗せた小佐田さんは〝まぁ頑張れ〞とでもいうように、数度そこを叩き、ミーティングルームから出ていった。

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