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第19話 ごめんなさい <Side 鞍崎

 寒気と怠さに、小佐田の風邪をもらったのだろうと、察しはついた。  家路の途中で病院に寄り、コンビニで冷却シートと食べられそうなものを見繕い帰宅した。  直ぐに対策した甲斐があり、翌日には熱は下がっていたが、大事を取り仕事は休んだ。  ―― ガチャン  玄関の解錠音が、部屋に響く。  この家の合鍵を持っているのは、たった1人。  訪れたのは網野だという確信を持ち、ベッドから起き出し、玄関へと続く扉を開いた。  案の定、そこでは網野が靴を脱ごうとしていた。  その口許には、マスクが着けられている。  昨日の夕方、網野からの電話を無下に切った。  〝来るな〞と命じた俺の言葉を守り、昨日は姿を見せなかった。  気配に顔を上げた網野と、俺のじっとりとした視線が交差する。  次の瞬間、がばりと網野の頭が下がった。 「ごめんなさいっ。言う事、聞けませんでした!」 「別に、怒ってねぇよ……」  俺の顔色を窺うよう、そろりと上がる網野の顔。  呆れの色を浮かべる俺の顔に、怒られずに済んだと肩の力を抜いた網野は、見えない唇で弧を描く。 「マスクするの苦しいでしょ。オレが徹底防御するんで」  予防は任せてくださいと大見得を切る網野に、くすりとした笑いを零す。  靴を脱ぎ、玄関を上がった網野の手が、俺の額に伸びてくる。  ぴたりと触れたその手は、冷たくも温かくもない。 「熱、下がりました?」  平熱の高い網野の手も、それほど温かいとは感じなかった。  まだ完治とは言い難い体調だが、首を傾げてきた網野に、柔らかく笑んで見せる。 「ぁあ。病院の薬が効いたんだろうな。今朝には下がってたんだけど、念のため休んで横になってたんだ」  いつまでも玄関先で話すコトもないだろうと、網野を室内に促しながら、言葉を紡いだ。 「じゃあ、これ要らなかったですね……」  俺の後をついてくる網野のしょんぼりとした音で紡がれた言葉に、リビングに着き振り返る。 「なに?」  網野は、がさりと手に持ったレジ袋を開いて見せる。  中には、冷却シートとスポーツドリンク、それにカップのアイスが入っていた。 「小佐田さんが、頼んだ買い物のお金返してないからって、2000円預けられて、なにか買って看病しに行けって」  小佐田の名に、嫉妬心も独占欲も剥き出しの顔を思い出す。  熱に浮かされていたとはいえ、あの小佐田が、形振(なりふ)りかまわず俺を威嚇してきたコトに驚いた。  随分と可愛い顔をするものだ、とも。  思わず、くすりとした笑いが零れていた。 「鞍崎さんは、横になっててください。ぶり返しても困るんで」  俺の背を押し促す網野に、ビニール袋からスポーツドリンクを抜く。 「喉、渇いてたんだ」  網野は、そのまま冷凍庫へとアイスをしまいに向かう。  俺は、スポーツドリンクを片手に、ベッドの中へと戻った。

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