5 / 42

2

(…………うーん……?) 意識が浮上して、ぼーっとして眠ってしまって、また意識が浮上して、ぼーっとして眠って…… それを何度か繰り返すうち、だんだん耳が聞こえるようになってきた。 てっきりここは日本だと思ってたけど、聞こえてくる言葉は明らかに日本語じゃない。 英語とかでもなく初めて聞く言葉だ。 ーーそれなのに、ちゃんと理解できてる自分がいる。 俺、もしかして海で流されまくって変な国に着いたのか? けど、言葉が理解できるしどうなってるんだ……? それと、もうひとつ。 「おや、トアスリティカ様が起きてらっしゃる。 おはようございます」 「おはようございます、本日はいいお天気ですよ」 ……俺の名前は、〝トアスリティカ〟と言うらしい。 体も動かない、目も開けられない、声も出せない。 そんな中、取り戻した聴覚を頼りに状況を理解しようと日々耳を傾けていた。 よく聞こえるのは、俺の世話をしているらしい人のもの。その都度その都度声が変わるから、多分何人かいるんだと思う。 そして、俺が動けなくても意識がある時を察知できるらしく、毎回目覚めたタイミングで声をかけてくれる。 何でわかるんだろう…不思議だ…… でも、それは悪い感じじゃなくすごく優しい声色で、聞いていて安心する。 その人たちが、しきりに俺のことを「トアスリティカ」と呼ぶ。 元の名前では呼ばれない。というか、初めましてなんだし俺の名前知ってるはず無いんだろうけど。 なら、そもそもトアスリティカって……? 男か女かも謎だし何でそんなに長いんだ。 世話もされてるし敬語で話しかけられてるし、本当よくわからない。頭がパンクしそう。 ここが日本じゃないのは確か。じゃあ何処? 俺は何者? (ーーもしかして) 俺、あの日死んで生まれ変わった…とか……? ビクリと、心臓が震えた。 もし、もし仮にそうだとしたら…… 生まれ変わって、新しい人生が始まっているとしたら…… そして、 もしもまた…世界に、馴染めなかったら……… (ーーーーっ、) 嫌だ。 それだけは、絶対に嫌だ。 も、あんな思い沢山なんだ……っ。 違和感だらけなのに、普通であるため必死に喰らいついてきた日常。 「怖い、助けて」をどうにか抑え込んで、笑って。 当たり前を当たり前にして、世間体も良好な関係も全部ちゃんと築いて。 ……それなのに、失敗して崩れてしまったあの日々。 それがもう一度繰り返されたら? もう一度、初めから始まったとしたら? そんなの堪ったもんじゃない。 無理だ。 だってあんなに頑張ったのに駄目だったんだ。 それなのにまたなんて……も、頑張れないよ俺。 もう、ひとりは嫌なんだ。 (それなら……) ーーそれなら、俺はこのまま 目覚めたくはない。

ともだちにシェアしよう!