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「やぁトアスリティカ、会いに来たよ」 (ぁ、この声は……) この世界で意識が戻って、大分時間が経った。 多分頑張れば手足も動かせて声も出せる。しないけど。 そんな俺に、よく話しかけてくれる声が3つある。敬語じゃなく柔らかい言葉で、世話する人がいなくなった後そっとやってくる人たち。 今日はその中でも恐らく1番年上。渋くて深みのある声の持ち主だ。 この人は、何故だかすごく安心する。 声と同じくシワのある手が、優しく頭を撫でてくれた。 「今は夜なんだ。 窓から星が沢山見える。いい天気だよ」 (そうなんだ) 日本じゃ星は全く見えなかった。 上を向いても真っ暗闇で、この上が宇宙とか信じれないくらい。 ここは、やはり日本とは違う。 ーーというか、最早地球上でもなかったり……? 「君の母も、きっとあの星の何処かで君を見ている筈だ。 私のことも見ていてくれたらいいけど、今は君に夢中だろうなぁ」 (………ぇ) 今、なんて。 「世話の者から聞いたよ。 君は目を覚ますのが怖いのかい?」 (っ、) 「あぁ、別に責めているわけじゃない。少しその様に感じると話があっただけだ。大丈夫だよ」 動いてないのに震えたのが分かったのか、苦笑する声が聞こえる。 「怖がることはしょうがない。私も君の立場だったらきっと怯えてしまうから。 ……でもね、トアスリティカ」 ふわりと取られた手。 「どうか、その恐怖を越えて目を開けてはくれないだろうか。 私だけじゃない。皆が、もうずっと君を待っているんだ」 (ーーっ、) 切実な願い。握られた場所から伝わる温度。 それらに胸がぎゅうっとなって、苦しくなる。 ねぇ、皆って誰? 貴方や世話してくれる人たちの他にも、待ってる人がいる? トアスリティカの母さんは死んだのか? どうして? 貴方は、もしかしてーー 「私にも、どうか〝父〟をさせてくれないか? 父様と、呼んではくれないだろうか……?」 握られていた手が離れ、俺の顔を包みこむように添えられた。 「いつもね、君を見る度思っていたんだ。 君の声はどんな音なんだろうと」 その眠る顔はどんなふうに動き、表情を作るのか。 どんな性格? どんな人柄? 何が得意で何が苦手? その目は、その瞳はどんなふうにーー 「笑ってくれるのだろうかと、そればかり考えていた」 (っ、) 「ねぇ、トアスリティカ」 優しく、愛おしそうに紡がれる言葉。 「君が怯えることはない。私や、君の兄弟がついている。この屋敷の者たちも味方だ。 だから、君は安心していいんだよ。此処に居てくれていいんだ」 (………でも) もしまた馴染めなかったら、俺はーー 「大丈夫。 私たちは絶対、君をひとりにしない」 (ーーーーっ、) 『ねぇ、やっぱりあの子変よ』 『一体どうしたんだ……』 『もう私、どうすればいいか……っ』 『俺らといるのがそんなに気に食わねぇの?』 『気持ち悪りぃんだよ、ずっと』 『大丈夫。 ーー君は、此処に居てくれていいんだ』 (〜〜〜〜っ、) ねぇ、それ 本当? 「……ぁ………ま」 「っ!」 初めて使った喉は掠れた声しか出せなくて 目蓋は重く、すぐにまた閉じてしまいそうになる。 それでも、全身の力を振り絞り懸命に開けていく。 慣れない空気に瞳がじんわり濡れて、元々ぼやけている視界がもっとぼやけてしまうけど でも、 「あぁ……トアスリティカ。 君の瞳は、君の母と同じ色だったんだね」 さっきよりもずっと近くで聞こえる声が、俺の顔に涙を落とした。

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