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この世界のこと 1

「トアスリティカ様!頑張って!!」 あの温かい言葉と温もりを信じ目を覚まして、半年。 今日も俺は、長い廊下で歩く練習をしている。 てっきり生まれ変わって前の記憶を持ちながら新しい人生を始めてるのかと思ったけど、この身体は生まれてからずっと目を覚ますことなく14年間眠り続けていたらしい。 要するに、別世界に転生したとかそういう類いじゃない。 元いた世界とこの世界での歳が同じ。 ってことは、俺の身体は2つあった? 日本にも生まれて、同時にこっちにも生まれていたのか? それで今この身体にいるのは、日本で死んだから? いや、そもそも本当にちゃんと死ねてるのか……? 疑問しか浮かばないし、未だにこれが現実なのかもわかってない。 けど、頬をつねった時痛かったから多分夢ではないはず。 まぁ何がともあれ、とりあえず俺は今この世界でなんとか生きていかなきゃいけない。 日本での名前じゃなく、トアスリティカとして。 だがーー 「はぁ……くっ」 「その調子ですよ!もう少し!」 14年も動かさなかった身体動かすの難しすぎないか!? えげつなく重い……本当に自分の身体!? 医師監視のもと日々身体を動かしたり言葉を練習したり、そのおかげで少しずつ日常生活に支障のないようになってきた。まだ完全ではないけど。 早く、自分で何でもできるようになりたい。 迷惑かけないように…するために…… 「あと、ちょっと……ぅわっ!」 もうすぐゴールというところで、浮いた身体。 そのまま知ってる体温に横抱きにされる。 「ただいまトア。まだ練習中だったんだ」 「エトシィール、兄様…?」 すぐそこにある顔が笑っていた。 「おかえりなさい、学校は終わったのですか?」 「うん。今日は俺のほうが早かったのか、頑張ってるね」 金髪に黄色い瞳。まるで蜂蜜を溶かしたように甘く優しいこの人は、俺のひとつ上の兄。 眠っている時に覚えていた3つの声のうちの1人だ。 驚くほど顔が整っていて、多分日本だったら芸能関係の仕事とかしてたと思う。 「今日はここまでにしていいかな?用事があるんだけど」 「承知しました。 トアスリティカ様、本日もお疲れ様でした。ゆっくりお休み下さいませ」 「ぁ、ありがとうございましたっ」 お辞儀されるのにお辞儀を返すと、兄様にふふふと笑われる。 「じゃあ行こうか」 「はい。あの、自分で歩けるので降ろしてもらっても…」 「いいのいいの。今日も十分足使ったでしょう?休憩ね。 トア軽いし気にしなくていいよ」 「うぅ……」 ひとつしか歳が離れてないのにこの体格差。悔しい。 この身体寝てばっかりだったもんな。だからきっとこれから大きくなるはずだ、成長期……! 目覚めてから、まず鏡に写る自分の容姿に驚いた。 黒髪に黒の瞳だった俺はどこにもいなくて、青い髪に青い瞳の人形みたいな奴がこちらを覗いていて。 『…か、髪、切りたい……』 生まれてから一度も切られてなかったらしい髪を切りたいというのが、この世界での俺の第一声となった。 絶対もっとあったよな。もう遅いけど。 今は肩より少し下くらいで揃えられている。 これでも長いと思うけど、父様に泣かれてしまいこれ以上は切れなかった。 因みに父様は兄様と同じ金髪に黄色の瞳だから、この青色は母様譲りなんだと思う。 だから短く切るのは寂しいのかな? この半年で、父様・兄様呼びも大分さまになってきた。 俺も少しづつこの世界に溶け込めてきているだろうか…… 「兄様、用事って…?」 「レスが合わせたい人がいるらしくて。だから応接室に行こうか」 レス…レスフィーは俺のひとつ下の弟。 3つの声の最後の1人で、兄たちと同じく金髪に黄色の瞳だ。 残念ながら背も負けている…… リスト家は3兄弟で年子。俺はその真ん中。 母様は弟を産んだ後すぐ亡くなってしまったらしく、父様をはじめ屋敷の人が俺たちの面倒をみてくれたのだそう。 レスフィーも今日は学校のはずだし、合わせたい人って誰だろう……? まだ屋敷から出たことが無く、ここ以外の人を知らない。 少し不安になりながらも、兄様に抱えられたまま部屋へ向かった。

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