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エルバと、俺の過去 1
「ん、んん……」
「っ、トア」
「ぁれ…エトシィール、兄様……?」
目を開けると、自室で兄が手を握ってくれていた。
「良かった、目が覚めた……
校内で倒れたと聞いてね、俺が連れ帰ってきたんだ」
「そんな…レスたちは……」
「まだ学校だよ。
新入生だから今日はやることが多いはず。帰ってきたらトアも教えてもらうといい」
「わかり、ました。
あの…兄様も授業中でしたよね、ごめんなさい」
「全然。これぐらいで謝らないで。兄弟なんだから心配するのは当たり前だよ」
「っ、はい」
「体調は平気? 眩暈とかない?」
「大丈夫です」
「そっか。じゃあレスたちが帰るまでもう暫くゆっくりしてるといい。
父様には俺から言っておくから」
「ありがとうございます」
軽く頭を撫でられ、部屋から去って行く。
「いい兄だな」
「っ、」
さっきまで兄様がいた位置に、エルバがいた。
「お前が眠ると同時に、消えたお前の魔力を不思議がった教師が入ってきてな。数分も経たぬうちにあの人間が飛んできた。
成る程、お前の兄だったのか」
「そう、だったんだ……」
全然記憶がない。不思議な感覚。
というか、口付けって本当に契約できるんだ。エルバは家まで付いて来てるし、消えることもない。
それに、なんか身体の中に誰かがいるような感覚がする。
契約ってこんな感じなんだ……
「さて」
「?」
ドカッとベッドに腰掛ける長身。
「契約は完了したが、まだあの部屋でしていた話は続いているぞ」
「え、」
「お前、一体何故変なんだ……?」
「ーーっ、」
胡乱げに見つめられ、グッと拳を握った。
「水と相性がいいのに怖いというのは分かった。
だが、あの精霊の言う通りまだ変わっているところがあるようだな。
どこだ? 教えろ」
「な、んで」
「契約を結んだからだ。互いの間に隠し事は無しだろう?
それに、興味がある。数百年生きているがこの様な違和感は初めてだ。
トアスリティカ、お前何故こんなにも不安定なんーー」
「ちょ、ちょっと待って!!」
問い詰めてくるのを、ベッドからガバッと起きて全力で止める。
待て、待て待て、今
「数百年って言った!?」
「あぁ、言ったな」
「数百年も生きてるのか!?」
「そうだ」
嘘だ、この精霊凄い年上じゃんか!
最初の精霊って子どもとかそういうのが多いって習ったのに、なんでこんなのが付いてるんだ?
どういうこと……?
「はっ、てか敬語」
「もう遅い。そのまま話せ」
「く、うぅ……っ」
「……はぁぁ。おい、今は我ではなくお前の話をしているんだ。少しは空気を読め」
「………俺…変?」
「変だな」
間髪入れずのど直球どストレートな回答。
けど、エルバに言われるのは不思議と嫌な感じがしない。
契約した相手だからか?
……俺も、いい加減腹を括る時か。
こっちの世界で生きぬくって決めたんだ。
だから相棒になってくれた精霊には俺の事を全部知って欲しいと思っていたし、話すつもりではいた。
「…引かないで、くれる?」
「あぁ。話の腰も折らぬようにしよう。
とりあえずは全て聞いた後だ」
「……わかった。
は、初めて話すから、上手く話せないかもだけど…ーー」
俺が目覚めるまでの14年間。
今でも鮮明に覚えている、日本での出来事。
それを、言葉に詰まりながらもひとつひとつ思い返しながら、聞かせていった。
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