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それからの日常 1

「ふ……ぅ…ん……っ」 兄弟で毎日通う学校。 日本では1人だったから、何だか不思議だ。 弟とはやっぱりクラスが違い、ティアと同じ精霊士の教室で過ごしている。 兄様は3年生の階からよく様子を見に来てくれる。勿論弟も。 クラスメイトも初めこそ「リスト家の眠り姫だ」って距離を置かれてたけど、段々馴染めてきてるんじゃいかなと…思う。 ……けど、 「はぁ……っ」 授業中、先生以外の声は聞こえない勉強の時間。 なのに、さっきから制服の上を見えない手が滑っていて全然集中できない。 『あぁもう、いい加減止めろって言ってるだろ!? 何なんだよ毎回!』 『何を言ってる、気持ちいだろう? 我はひと時もお前を離したくはないのに何故抵抗するんだ』 『ここ学校だから、しかも授業中!』 『授業など必要ない。あの教師より我の方が遥かに知っているし、そんな我と契約したのだ。お前はもう何も学ばなくていい』 『違っ、授業にお前は関係ないだろ!?』 『それよりも我はお前と共鳴していたい。 これがどれ程凄いことなのかまだ分かっていないのか? 今学んでいるものよりもずっと重要だぞ? 我はこの奇跡を逃さず感じていたいのだ。 それなのにお前は……ただでさえ肌に触れるのを我慢しているというのに……』 『っ、やめっ!』 じっくりと腰を撫でられ、口から漏れそうになる声を片手で塞いだ。 いつもこう。 契約した者同士が使えるテレパシーみたいなので抗議しても、軽くあしらわれてしまう。 確かに初めは、平気で服の中にも手が入って来て大変だった。流石に怒って家以外では禁止にしたけど…… でも、服の上からでも十分すぎるくらい気持ちがよくて震えてしまう。 もっと抵抗できたらいいけど、身体が刺激を受けたがっていてできなくて。まるで感情と身体がバラバラになっているみたいだ。 毎日繰り返されるこれに、少しずつ我慢できるようにはなってる。でも、気を抜いたら直ぐ恥ずかしい声が出てしまいそうで。 「っ、ふ……」 ひたすらに、授業が終わるのを待つしかなかった。 「ねぇ、大丈夫?」 「なんとか……やっぱり魔力でバレてた?」 「僕にだけね」 授業終わり、ティアが席まで来てくれた。 「大分コントロール出来るようにはなってるけど……授業頭に入ってるの?」 「全然……」 「…はぁぁ……」 ティアにはこのことを相談している。 でも、どうも難しいらしい。 精霊は悪戯好きが多いし、そんな中共鳴相手を見つけてしまったのならその手は止まることを知らない。 対話でどうにかするのが良いけど、何百歳も歳が離れているんじゃ話も難しいだろうし…… 「まぁ、服に手を入れられなくなっただけでも進歩なんじゃない? それ以外には慣れないと普通の生活にも影響が出るしね。早くその刺激を身体に覚えさせないと」 「うん……」 そうだよな、服の上からの共鳴は克服しとかなきゃやばいよな。 でも、もうちょっと加減してくれてもいいのに…… こういう話をしている時に限って、あいつは話しかけても出てこなくなる。これ以上何かを禁止られるのが嫌なのか……? まったく。 「ぁ、あの、2人ともっ」 「?」 話しかけられた方を見ると、クラスメイトたち。 えぇっと…名前はなんだったっけな。クラスに精霊士しかいない分必然的にみんな呪文のように名前が長くて、覚えられてない…… 「今、共鳴について話してた?」 「良かったら僕たちも入れてくれない?」 「トアスリティカくんがどうやって共鳴相手を見つけたのか、やっぱり知りたくて!」 「あ、いや…えっと……」 「というか、今の授業でも共鳴してたよね?」 「ぇ、」 「やっぱり!? 後ろの席だから見てたんだけど、身体が震えてたからそうかなって」 「震えちゃうくらい気持ちいの? 我慢できない感じ?」 「いいなぁ僕も味わってみたい! ねぇねぇ、一体どうやってそんな精霊見つけたーー」 「ちょっと黙って、うるさい」 ドスの効いた、重い声。 「トア、行こう」 「へっ、ぁ、うん」 ガタンと立ち上がったティアに腕を掴まれ、そのまま引っ張られていく。 ティアは、クラスで度々起こるこういう空気を嫌う。 「トアが何度も分からないって言ってるのに馬鹿じゃないの」と、「少しは自力で動けよ」と言ってくれる。 俺もこの空気が好きではなくて、今も全員から見られている感じが居心地悪くて。 「……っ、」 恥ずかしい。震えてるの、見られてたんだ……っ。 突然できた相棒とどう付き合っていけばいいのか掴めない中、この日常を乗り越えるのに苦労していた。

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