19 / 42
2
「呼吸を止めるな、ゆっくりだ」
「うん……」
扉や窓を閉め切った自室。
ベッドに腰掛けたエルバの足の間に座り、落ち着いて息を整える。
学校から帰ったら、水を克服する練習をしている。
エルバの幻術で部屋いっぱいに水を溜めて、少しづつその水位を上げていくもの。
手助けをすると言ったのは本当だったようで、いつもこうして俺に付き合ってくれている。
「目は開けたまま、水面を見ておけ。
身体で水を感じろ」
徐々に上がっていく水位。
昨日は胸くらいまで大丈夫だったから、今日は肩くらいまで……
「ひ!? うわっ」
指先に触れた水が思いの外冷たく、思わず水から出してしまった。
その際に出た水飛沫が顔に当たり、軽くパニックになってしまって。
「落ち着けトアスリティカ、大丈夫だ」
「ぁ……」
後ろからぎゅぅっと抱きしめられ、違う意味で身体が震える。
「少し温度を下げたのがいけなかったか。
すまぬ。これくらいでどうだ?」
「だい、じょ…ぶ……」
背中や回されている腕からの魔力が温かくて、逆に心地良い。
自分は1人じゃないって言ってくれてるような気がして。
「水位、上げていいよ」
「わかった」
呼吸を落ち着けて告げると、また徐々に上がってくる水。
回されている腕を握り、呼吸を止めずにじっと耐えて。
胸まで来たところで一旦止まり、俺の様子を確認してまた上がっていく。
そうして、
「ふむ、目標達成だな」
「よし……!」
肩まで来たところで、ピタリと止まった。
「全身が浸かるのはもう少しか。恐怖に打ち勝つ日は近いのではないか?」
「そうだといい、けど……」
まだ冷たいのは駄目だ。暗いのも。
日が入る明るい水じゃないと、どうも耐えられる気がしない。
後は、エルバと離れて自分だけの時も…耐えられるかどうか……
「まぁ、我がいるから克服出来ずともいいのだが」
「ちょっと、前と言ってること違くないか?
大体学校といい今といい自分を過信しすぎだろ。そりゃ数百年生きてるのは凄いけど、その分物忘れとかあるんじゃないの?」
「ほう? 我をじじい呼ばわりとは、大した者だ」
「はははっ」
こんなに顔から水が近いのに、冗談が言えるくらい平気。
暫くこのまま話をして、「今日はここまで」と幻術が消された。
「さて、トアスリティカ」
「う、うぅ……」
こいつにとっては、こっちがメインなんじゃないだろうか。
身体を離されてベッドに寝転がると、直ぐエルバが覆い被さって来た。
「んぅ……っ!」
直ぐに塞がれる唇。上ずって出る声。
学校じゃ我慢してくれてる分、練習後の時間はエルバにあげている。
口付けをされ、はだけた制服の中に手を入れられ直接肌に触れられて。
(あ、あ、気持ちい……っ)
自然と、目の前の首へ腕が伸びた。
「ふ、ぅぅ……んっ、エルバ……ぁっ」
まるで恋人のようだと、思う。
キスをして、互いの名前を呼んで、身体を触って。
大事に触れてくれる指先と、そこから流れてくる魔力が本当に溺れそうなほど気持ちよくて、頭が真っ白になりそうで。
ーーでも、駄目だ。
今にも擦り付けてしまいそうな自身を、何とか我慢する。
触り方は、決して卑猥なものではなくただ共鳴を楽しんでいるもの。
だから、その気持ちよさを勝手に性的なものと結びつけてるのは自分で、勃たせてしまっているのも自分で。
どうしてこうなるんだろう。
俺は、エルバのことが好きなのかな……?
〝好き〟なんて感情味わったことないし、それより周りに嫌われないよう生きてくので必死だった。
だから今、こんな俺を受け入れてくれるこいつに…惹かれている……?
いや、違うな。
もっと前、「もしかしたら我がお前を呼んだのかもしれない」と言われた時。
誰でもない、自分じゃないと共鳴できないということ。
自分だけを求めてくれていたということ。
それは裏を返せば、身体の2つあった不安定な俺の居場所はこっちだと
ーーエルバの隣こそが俺の居場所ということを……教えてくれたようで。
「ひぁ!」
指が乳首を掠めて、大きな声が出た。
「? どうしたトアスリティカ、痛かったか?」
「ぁ、ちがっ」
エルバは上半身しか触らない。
下を脱がされたことはないし、だからきっと本当に性的なことに興味がない。ただ魔力の融合を楽しみたいだけ。
それなら、今みたいに変に感じたら駄目だ。
どこを触られても同じ魔力の融合。同じ反応をしておかなくては。
我慢…しないと……っ。
「ふ…んんっ、ぁ…あ、っ」
こんなこと、ティアにも相談できない。
こんな感情、こんな想い、こんな言葉。
「自分はエルバが好きなのかもしれない」などというそれは、
決してーー
「はぁ…トアスリティカ……」
再び塞がれる唇とそこから入り込んできた舌に、思い切り感じて。
どうかこの震えは、共鳴する気持ちよさからくるものだと、そう思ってくれているのを願いながら
「〜〜〜〜っ!」
ただひたすらに、今にも吐精しそうなソコを必死に抑え込んだ。
ともだちにシェアしよう!