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第9話 凶鳥

 バッサバッサと翼が羽ばたく度森の木々が揺れる。  この大きさで良く飛べるよねぇ……?半分は魔力とかで飛んでるのかな。地面が下過ぎて怖いけど、遠くの景色が見えて綺麗だ。  あの微かに見えてるお城がパルヴァン王国の王城だろうな〜。まあ遠すぎて小さな動物の何とかファミリーの家くらいの大きさにしか見えないんだけど。 「僕はどこまで運ばれるんだ……」  いきなり喰われたり木にぶっ刺したりされないのは良かったけど、ずっとぶら下げられて飛んでるのもそれはそれでとっても困る。  っていうか頼むよ未来の勇者さんよ。そりゃ僕は勇者にとってはラスボスの魔王ですよ。だからっていきなり非戦闘員を魔物に誘拐されるなんてちょっと油断が過ぎませんかね?  いや、それを言うなら本来魔王の僕はどうなの、って話ですけどね。 「鳥さん鳥さん、僕をどこまで連れていく気ですか?」  これで返事が返ってきたらそれはそれで怖いけど、当然答えてくれるわけもなく。  もしかして僕が爪に引っかかってるって気付いてないのでは、なんて微かな希望が叶うはずもなく。  眼下に見えてきたのは僕くらいある雛達がピィピィ……いや、そんな可愛らしい声じゃない。なんかこう……GYAaaaaみたいな字で表したくなるような濁声が響いている。  そうですよね、鳥が何かを運ぶって巣を作るか餌を運ぶかですよね。しかもご立派なおうちがあって子沢山のようだから……。 「餌ですよねーーーーー!!!?」  何の前触れもなくポイっと巣に向けて投げ込まれてしまう。  いやいやいや、何それ、何これ!魔王エンド回避したら魔物の餌エンドとかありですか!!?ちょっと僕が何したって言うのさ!オーナーのおパンツ隙をみて嗅いだからですか!?だって誘惑に負けちゃったんだもの!  尻からドサッと落ちた先は意外に羽毛でふかふかだった。ただし周りからはギョロ目の熱視線を感じるけど。  せめて背中にあったリュックを前に抱えていつでも攻撃出来るようにする。 (……いや、食われそうになったら魔法使えばいいんじゃない……?)  魔王になった時一人ぼっちの僕の側にいてくれたのは魔物達だっただろうけど、魔王じゃない今の僕は餌としか認識されてないんじゃないだろうか。  だったら殺す……のは可哀想だから脅すくらいしても良いだろう。  だなんてつらつら考えてたんだけど……一向に最初の一撃が来ない。  ギョロ目の雛達もギョロギョロと戸惑ったようにバサリと降り立った母――だか父だか――を見上げている。 『無理矢理連れてきて済まない』 「キャアァァァァシャベッタァァァァァァァ!!!?」  え、喋った!?今喋んなかった!?絶対喋った!!! 『驚かせたな、人の子よ』 「驚きますよ!人ですもん!何なんですか!?何で喋るんですか!?僕の友達魔物学者だけど魔物が喋るなんて言ってなかったですけど!」  小説で魔王になったウルが魔物と行動を共にしてる描写はあったけど、魔物と喋ってる描写はなかった。  だってウルは倒される為にいる存在だから、魔王になった後どこでどんな生活をしていたかなんて全然話には出て来なかったんだよね。だからもしかしたらこうやって魔物達と喋ったりしてたのかも知れない。  ……いや、でも待って!今僕魔王じゃないから! 『極端に魔力の高い人間にしか我らの声は聞こえぬ』 「そうなの?」  魔塔の魔術師とかは、って訊きかけて、そもそも魔塔の引きこもり達がこんな森まで遠征してくる事なんてないかと思い直す。  マリオットも割りとそうだけど研究バカって好きな事になると動かなくなるもんね。  僕もオーナーの生態を調べろって言われたらずっとその場に待機してる自信あるわ〜。ずっと眺めていられる、あの筋肉……。  いや、今そんな場合じゃなかったわ。 「それで……僕に何の用事?」 『お主からは王の気配を感じる』 「何の王ですかね!?」  魔王じゃないよね!?僕魔王じゃないからね!? 『王になり得る存在ならば我が子の事を救ってくれるのではないかと思ってな』  王にはなりませんよ!  でも救う?ってどういう事だろう。顔が怖くてあんまり見ないようにしてたギョロ目の雛達は元気そうに見えるんだけど。  首を傾げてたらギョロ目ちゃんが一羽ヨチヨチと場所を空けてくれた。その後ろにあったのは……。 「卵?」  僕が抱えたリュックと同じくらいの大きさの卵だ。茶褐色の斑点があって何故かうっすら黒いモヤに覆われている。   『この子だけ孵らぬのだ』 「この黒いモヤは?」 『わからぬ。王たる資質を持つお主なら、と思ったのだが……』  王じゃないから!  王じゃないけど……ギョロ目の雛達もこの親鳥も心配そうに卵を嘴で優しくつついて、早く出てこい、って言ってて――少しだけ羨ましく思った。  この子は皆から望まれてるんだ。だったら望んでくれる皆の為に、この世界に出てきて貰わなきゃ。  とは言え…….。 「僕じゃ全くわからないなぁ……」  下から僕を呼ぶ声と矢が飛んできたのはその時だった。  そうだった!マリオットがいるじゃん!! 「待って待って!皆攻撃しないで!!」  僕がいるから魔法は使わなかったんだろう。弓矢を構えたマリオットの護衛騎士達が見えて慌てて巣から身を乗り出す。  落ちそうになる僕の服の背中を嘴でつまむ凶鳥が僕を補食しそうに見えるのかますますいきり立つ眼下の皆に手で大きくバツを作って見せた。 「何だそのバツは?何のバツだ?もう補食されたから助けはいらないバツか!?」  マリオットちょっとパニックになってるだろ!僕が補食済みならこんな元気にバツポーズとってないわ!  未来の勇者も困惑した顔のまま固まってる。  う〜ん。小説では凶鳥くらいなら一撃で倒してたんだけどね。いや、事情を知ってしまったらこれくらい一撃で倒せよ、とか言えなくなったんですが。 「この魔物、ちょっと事情があって僕を連れてきたらしいんだけどさ。僕じゃわかんないからマリオット上がってきてくれよ」 「……事情?魔物が?」  あ、マリオットの目が輝いてる。しまったな。魔物バカの研究魂に火をつけてしまったかも知れない。  今行く、なんて華奢な見た目と可愛い顔に似合わない俊敏な動きで木を登り始めたマリオットに護衛さん達はあたふたしてるけど、大丈夫だ。マリオットは猿並みに木登りは得意なんだ。多分家ではやらないんだろう。そりゃ貴族子息が突然木登りなんて始めたらマリオットの可憐な母上が倒れて3日くらい熱出しちゃうかも知れないもんな。  ……護衛さんが倒れて熱出そうな顔してるけど。 「で!事情ってなんだ!?」  目を爛々とさせた魔物バカが巣の端からひょこっと顔を出すとギョロ目の雛達が揃って体をびくん、とさせる。  ……顔怖いけどちょっと可愛く見えてきたぞ? 『王よ、この者は?』 「待て待て、王じゃない。王になってないから。勝手にフラグ立てないで。せめて資質を持つ者で留めておいて」 『王モドキよ』  え、やだ。なんか新たな魔物みたいな名前つけられた!いやでも王、って呼ばれると自分が魔王になったみたいで嫌だからモドキで我慢しよう。それもどうなんだって感じですが。  よいしょ、っと言いながら巣に上がってきたマリオットは僕と凶鳥を見比べて何だかキラキラしてる。  この目の時のマリオットは危険だ。なんせ……。 「お前、魔物と話せてるの?どんな原理?やっぱ未来の魔王だから?それとも別の理由?解剖させてくれ!」  すぐ解剖したがる。怖い。 「僕の魔力が人より高いから言葉が分かるんだって。僕と同じくらいの魔力の人ならわかるかもよ」  未来の勇者は魔力より腕力だったから論外だな。未来の聖騎士くらいならもしかしたらわかったかもだけど、王城騎士のギフトは何気に多忙だからそう簡単には帰って来ない。  マリオットも魔力はあるけどめちゃくちゃ強いわけじゃないから言葉まではわからないらしく、結局僕が魔王予定だったからわかるのか、それとも魔力が高い人はみんなわかるのかは判定出来なかった。  それはともかく。 「何かこの卵だけ孵らなくて困ってるんだって」 「……ああ、これは……魔力欠乏症だな」 「え、わかるの!?」  さっすが魔物生態学の博士!パッと見ただけで原因がわかるなんて! 『だが他の子らと同じように魔力は注いだのだぞ』  凶鳥の言葉をマリオットに訳す。 「これだけ他の魔鳥の卵なんだ」 『なんと!?』  いや、本当になんと!?だよ。他の魔鳥の卵が交ざってたってこと!?しかもそれに気付かなかったってこと!?  確かに托卵する鳥って自然界にもいた気がするけど魔物にもいるんだ!? 「どうする?こいつは孵化すると他の雛を餌に成長するぞ?」  ギョロ目達がまたも揃って体をびくん、と揺らす。  えぇぇぇぇぇ……頑張って温めてたのにまさかの違う魔物の子だった上に孵化したら生まれてる我が子達を食べられちゃうなんて。あんなに心配してたのにそりゃないよ。 『しかしその卵を割るわけにもいくまい』  少なくともたった今まで我が子だと思って温めていた卵だ。簡単に割り切れないのだろう。――卵だけに。  いやそんなバカなボケをかましてる場合じゃなかった。 「どうすんの?っていうかそれ、何が生まれてくるの?」 「魔鳥ハルピュイアだ」 「あの上半身人間みたいなやつだよね?あれも卵から……」  そこまで言ってから首を傾げる。  今の僕の台詞どこかで聞いたことあるな?聞いた、っていうか、読んだ―― 「あーーーーーーーッ!!」  今度はギョロ目達だけじゃなく親鳥もびくん、ってなった。下からは、何だどうした何が起きてるんだ、って騒ぎが聞こえてくるけどそれどころじゃない。  魔鳥ハルピュイア。  それはウル()が魔王になった第2部の一番最初のボスの名だ。  ハガル達が泊まった農村では夜な夜な何者かが畑を荒し、時に人を襲い、汚物を撒き散らして去っていく事件が多発していた。  明らかに人外の爪痕に恐れをなした村人達は外にも出られず困り果てていた所にハガル達魔王討伐隊がやって来たんだ。  ハガル達も魔物が増えたのはきっと魔王が現れたからだろう、なんて言ってハルピュイアを退治しに行く。  その現場は―― 「こ、この森だ……!」  農村にはまだ距離があるからここから全く見えないけど、多分間違いない。  ハルピュイアは孵化してから1ヶ月もあれば立派な成鳥だ。  僕がオーナーのとこに来てから4ヶ月。小説ではウルが魔王になってから4ヶ月って事だ。  ハガルやティールが旅に出るのは魔王が生まれてから1年近く経ってからだった筈。  つまり今この卵の中身は恐らくきっとあの時のボス。最初のボスだけあってまだ経験が浅い勇者様ご一行はハルピュイアの羽ばたきで放たれる衝撃波で苦戦していた記憶がある。 「何だ?どうしたんだ」 「マリオット……!この卵、孵したらダメだ……!」  農村では作物の他に老若男女問わず結構な人が喰われていた。勇者ご一行が何とか退治したものの、もうそこでの生活は無理だって村ごと移住したくらいの被害はハガル達の胸に必ず魔王を倒す、っていう決意を宿らせたものだ。  ――やったのはハルピュイアなのになんで魔王のせいなんだよ!  と、突っ込んだけれど後々魔王が魔物を活発化させてる、っていうような文章が出てきた気がする。  今の僕は魔王じゃないけど、流石にこんな危険な魔物は孵しちゃいけないと思う!そもそも小説の展開ではどうやってこの魔力不足を解消したんだ?あ、もしかして魔王復活の影響で魔物の能力値も向上してたからか?だったら魔王がいない今この卵は放っておいても孵らない? 「まあハルピュイアは2級危険種だから孵すつもりはないけど……」 『ではどうすると言うのだ。我も我が子が喰われてしまうとあればここに置いておくわけにもいかん。しかし同胞として割られるのを見過ごすわけにもいかん』 「自然の事は自然に、っていうのが一番だろ」 『なるほどのぅ』  不意にどこからともなく声がして、にゅ、っと新たな嘴が現れた時には危うく絹をさくような悲鳴を上げてしまうところだったわ。  だってさっきまで何もいないと思ってた木の間からもう一羽でかい凶鳥が出てきたんだもん。いつからいたの!?っていうかもしかしてずっといた?そういやマリオットが縄張り主張してる凶鳥は番でいる、って言ってたし。 『どうするのかと聞いておれば……人間らしからぬ事を言うものよ』  そう言って後から現れた凶鳥は、ほ、ほ、ほ、と上品な笑い声を上げる。ギョロ目だけど。顔怖いけど。 『ハルピュイアの卵は人間にとっては貴重なものではないのかえ?』  え?そうなの?  凶鳥2号の言葉を訳しながら首を傾げる。 「滅多にお目にかかれないから高額で取引されてるんだ。滋養の薬になるんだよ」  えぇぇぇぇぇ、だって半分人型だよ!?あ、卵の段階だからまだ人型になってない黄身と白身だけの状態の時かな?それでも将来人に似た形になると思うとちょっと躊躇するけど。 『それを知って尚自然に還すとな?』 「オレの目的は金儲けじゃないので」  どの魔物がどんな生態でどの程度分布しているか、ただそういうのを知りたいだけ。その中でどうしても生息域が人間と被るものだけ退治しながら出来る限り共存する為の研究をしてるんだ、って。  そうかただの解剖好きなマッドサイエンティストじゃなかったのか。ごめんなマリオット、誤解してたよ。  で、自然に還すってどういう事かな?って何の気なしに聞いたことを後悔した。  だって! 「まさか蜘蛛に喰わせるなんて思わないじゃんかーーーー!!!」  凶鳥は孵らない卵が自分達のものではない上に今いる我が子達を食べてしまう、と聞いて巣の場所を変えるらしい。  ハルピュイアは1回の産卵期で色んな巣を回って大体が各巣に1個づつ、計10個程度の托卵をする。一度産み付けた巣を覚えていてまた来る事があるからその為にも引っ越しは急務だ。  今度はハルピュイアが好まないような森の奥にする、と言っていた凶鳥達と別れてそもそもの獲物であるマッドベアを探しながら見つけた巨大蜘蛛ギガントタランチュラの巣にマリオットはぽい、と何の躊躇いもなく卵を投げた。  普通の蜘蛛だって石を持ち上げるくらいの強度の糸を紡ぐ。ギガントタランチュラなんて魔物クラスになると僕の腕がようやく回るくらいのでっかい卵だって簡単に糸に引っ掛かってしまう。ちなみに人間が引っ掛かったら糸を火で燃やさない限りアウトだ。 「自然に還すって言ったろ」 「そうだけど〜!!」  確かに僕達人間だって色んな生き物の命を奪って生きてるんだからこれが自然なのかも知れないけど……!! 「ギガントタランチュラに滋養っている?」 「こいつらは見た目気持ち悪いけど森の掃除屋だぞ。沢山子供生んでもらわないと困る」  するする降りてきたどでかい蜘蛛に半泣きの僕なんかおかまいなしでマリオットは実に楽しそうに雌が雄の背中に卵を生む、これは背中に子供がいるから雄、とか言ってくるから僕はひとまず未来の勇者の背中に隠れておく事にした。  そんなこんなで時間をロスしつつ、本来の獲物であるマッドベアを見つけたんだけど。  ……群れてるんですけど……。マッドベアって群れるんですか?1、2……10頭くらいいない?  小型の魔物が群れるのは良く聞くけど、こんな大型の魔物が群れるなんて聞いてないよマリオット先生! 「マッドベアは本来群れない魔物だ」 「そんな事言ったって……現に群れてるじゃん」  これ未来の勇者とマリオットの護衛さん達だけで倒せる……?  僕攻撃魔法の実地訓練したことないんだけど。  あ、でも魔王の僕はそんな事しなくてもバンバン魔法使ってたけどね。だからいざとなったら体が勝手に動いちゃったりしてね。……いや困るよ。それって魔王に近付いてるじゃん。  攻撃魔法、ダメ!絶対!魔王フラグ禁止! 「にしても奴ら何に群れてるんだ?」  ティールが懐から出した単眼鏡を覗く。 「何々?何が見えた?」 「……お前、戦闘は?」  推しに話しかけられたマリオットが頬を赤くしながら答える。 「後方支援なら」  マリオットの3人の護衛さん達は3人で1体のマッドベアなら相手に出来る、って答える。  あれ、僕は?僕には訊かないの?僕も後方支援なら出来るよ!重力操作とか! 「……一度退いて人を揃えてから戻った方が良い」  ティールの言葉でマリオットが首を横に振った。 「マッドベアは狩り場を転々とするんだ。今見失ったら次どこに現れるかわからない。森の近くの農村に現れるのも時間の問題だと思う」 「俺達だけであの数は相手に出来ない」  単眼鏡を渡されたマリオットが首を傾げて覗いて絶句する。  続けて渡された護衛さん達も同じように覗いて絶句して、無意識なのかそのまま僕にも渡してきたから皆の反応で薄々良いものは見えないんだろうと思いながら覗いた向こう側。  川の水は赤い。  結構分厚そうな鎧は無惨に引き裂かれ、多分体から出ちゃダメだろうな〜って部分が露出している。しかもそれが一人分じゃないんだ。  世の中には冒険者と呼ばれる人達がいる。魔物退治を生業としてる冒険者もいて、小説のハガル達もたまに冒険者の手を借りていた。  川の中で無惨な事になってるのはその冒険者のパーティのようだった。バラバラ過ぎて元が何人いたのかもわからないけど、装備品の種類から言って5人はいたと思う。  マッドベア達には傷がほぼついていない。  今の僕達も川の中で物言わぬ塊になってしまった彼らと人数的には変わらない。しかも相手がどの程度の実力者だったかは不明だけど、こっちは対人間が主だ。あと僕は戦力外だろうし、唯一魔物と対峙し慣れてるマリオットだってこれまでの活動時一緒にいたのは一級冒険者とか騎士達だろう。 「あの数を倒せるのはオッサンくらいなもんだ」 「オッサン?オッサンってオーナーの事?呼ぶ?」 「は?お前ここまでどれだけ時間かかったと思って……」 「オーナー!!助けて〜!」  あんまり大きな声出したらマッドベアに気付かれちゃうからね。あくまでも気分だけ叫んだ感じでね。  そうやって魔術陣に叫んだらあら不思議。いつものひよこちゃんエプロンでちょっと驚いた顔のオッサンが召喚出来ちゃうわけですよ。すごくない?  しかもね、オーナーの愛剣も問答無用で一緒に召喚されるわけです。  皆の口があんぐり開いた。ティールの間抜け面初めて見たわ。  オーナーもオーナーで状況が飲み込めなくて固まってるけど我に返ったのは流石にオーナーが先だった。  出掛ける前に僕がピンチになったら助けてね、って言って対になる魔術陣渡しておいたんだ〜。  え?下心?あったよ。オーナーが戦ってる姿が見たい、っていう下心が!  でもあのマッドベア達を見てオーナーも撤退判断したらそれはもう間違いなく撤退した方が良いんだろう。 「ティールがオーナーならあれ倒せるっていうから呼んだ〜」 「お前な……」  言いながらもちゃんと単眼鏡を手に状況判断をする辺り、手慣れてる感じがしてかっこいい。  今ハーブ使って何か作ってたのかな?いい匂いがするし……今すぐ抱きつきたい。ムチムチ雄っぱいで横に伸びたひよこちゃんにすりすりしたい! 「マッドベアは額の真ん中が弱点だ」  単眼鏡を下ろしたオーナーに言われてティールがむ、っとした顔になる。 「わかってても狙えなかったら意味ない」 「狙えないなら首ごと落とせ」  そう言ってひよこちゃんエプロンのオッサンは肩に大剣を担ぐ。縦横が僕くらいあるんですけど。あんなの持って早く動けるの?  でもそうやって言うって事はオーナーは撤退判断をしなかったって事だ。  だから皆に細かく指示を出してる。  主にオーナーとティールが前衛、近寄ってきたやつは護衛さん達が威嚇して引き離す。それでも寄ってくるやつはマリオットの糸で足止めしつつ、怪我人は僕がすぐ遠距離で癒す。  本当にそんなざっくりで大丈夫?って思ってたよ。いくらオーナーだってそんなまさか、ねぇ。なんて。  冒険者時代のオーナー、伝説級って言われるくらい強かったんだって最初に言っといて欲しかったよ。    

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