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第28話 ご褒美※

 ちゅ、ちゅ、って何度も唇が重なり合った。何回か気持ち悪くないか訊かれて考える。  ラーグの時はあんなに気持ち悪かったのに、オーナーの時はSubドロップとかDomの『コマンド』でヘロヘロになってない今でも全然気持ち悪くない。  何でだろう、なんて考えなくても本当はわかってる。  僕もオーナーの事が好きだからだ。推しだから、とか言い訳してずっと誤魔化して来たけどその推しが僕を好きだって言ってくれてる。本当なら喜ぶべきなんだろう。――でも僕は魔王(ウル)だから。  ウルはソンジェラール殿下に依存に近い愛情を抱いてた。殿下に愛して欲しくて一杯頑張ったし何にでも耐えた。苛めだなんて言葉では言い表せないくらい酷い事も、毒を盛られて死にそうなくらい辛い事も全部全部殿下に愛して欲しいからだった。両親に愛されなかった分を殿下で埋めたかったのかも知れないけど、それでも確かにウルの中では恋だったんだ。  なのに最後あんな最低な形で裏切られて魔王になってしまった。代わりだったなんて言われて、縋った手は振り払われた。  じゃあ今の僕と魔王(ウル)に何の違いがあるんだろう、って。  僕はずっとオーナーの側に行く事だけを心の支えにして生きて来た。両親、何だったらどうやら実の母親ですら僕の事を憎んでたみたいだし魔王(ウル)と何の違いがあるんだろう。  オーナーは殿下とは違う。それは確実だ。だから魔王(ウル)みたいな最期にはならないと思う。  だけど本当にそうかな、ってモヤモヤするんだ。この時期に僕が魔王になってない事で物語は破綻してる筈なのに、魔物は増えてる。  僕の事を魔王だって言い張るパルヴァンの王太子の意図も全くわからない。もしかしたらこれが物語の強制力っていうやつだったらどうしよう、って不安になるんだ。 「オーナー……僕、……」  オーナーが好きだよ。  オーナーはあのバカ殿下みたいなバカな事はしないって信じてる。でも僕が魔王にならない保証がないのが怖い。魔王になった時公爵や殿下を殺して回ったみたいに、恐怖と憎しみでわけがわかんなくなった僕がオーナーを傷つけたらどうしよう、って怖い。 「今は無理に答えなくて良い」  オーナーが僕の頬にキスしたあとでまた僕を見下ろす形になる。  やっぱり僕の最推しはカッコイイ!って叫びたいくらい男前なオーナーが穏やかな笑みを浮かべた。 「お前が自分を信じられるようになったら、その時に答えてくれれば良い」  きゅう、って胸が締め付けられて思わずオーナーに抱き着いた。  そうだね。多分僕が一番僕を信じてないから。もしかしたら、ってずっと疑ってるから。魔王になんてなりたくない、だけどもしかしたら強制力が働いてなってしまうかも知れない、って。その時にオーナーや皆に迷惑をかけたくない。なのに皆から離れたくもない、そんな中途半端な僕にオーナーは気付いてくれてたんだ。 「……オーナー、僕が魔王じゃないって信じてくれるの?」  物語上では魔王で、あの王太子にも疑われてる僕の事を信じてくれるの? 「ずっと、僕じゃない、って言ってたのはお前だろ」  耳元でクスクスと笑う声が心地いい。 「それで、ご褒美はいるのか?」  ちょっとだけ意地悪そうな声で聞かれて当たり前でしょ!と力強く頷いたら思いっきり笑われてしまった。  僕が絶対魔王にならない、って信じられるようになるにはまだ少し時間が足りない。だけど万が一魔王になってしまってオーナーの側にいられなくなった時、心の支えになる思い出が欲しい。 「ご褒美ください」  わかった、と囁くような声が耳に入り込んできてそれだけで腰が砕けそうだ。  いつもならお風呂場で僕だけデロデロにイかされて終わるんだけど、そのまま枕に戻されたって事は今日はここでするのかな?ハッ!?今日こそオーナーのオーナーが拝めるのか!? 「き、今日は……入れる?」  ごふ、とオーナーが噎せたけど僕は真剣だ。 「今日はまだダメだ」 「え~……だってご褒美くれるって……」 「言っただろ。まだ入らない」  確かにあのオモチャまだ使ってないし、オーナーがどこかにしまっちゃったから拡張出来なかったけど。  むす、と尖らせた唇にちゅ、っとキスされて恥ずかしくなる。  だって、だって……オーナーがカッコイイんだもんーーー!!もう、本当に、僕の推し最高!!!なんて1人で悶えてる間に啄むだけだったキスが深くなっていく。 「ん、ぅ……」  ぬるりと入り込む舌はいつもみたいにいとも簡単に僕の舌を捕らえて、舌先で表面をなぞったり上顎をくすぐったりしてくるから勝手に声が漏れてしまう。  ぞくぞくと鳥肌が立ってしまうのはさっきまでの嫌悪とか恐怖と違って気持ちよくて、だ。  いつもなら『コマンド』で脱がされる服をオーナーの手が脱がせていくのが恥ずかしくて、その恥ずかしさもオーナーから与えられた物だって思うと途端に快楽に変わってしまうからSubの本能って怖い。 「あ、オーナー……」  でもやっぱり『コマンド』が欲しい。命令されたい、従属したい、良く出来たって褒めて欲しい。そしたらもっと気持ち良くなれる事を知ってしまったから。  ふわふわと漂い始めたハーブみたいな香りを擦り付けるみたいに顔の横にあるオーナーの手に自分の頬を寄せる。剣だこのある節くれだった男らしい手だ。僕のやわな手なんかと比べ物にならない固い手の平が僕の頬を撫でた。 「どうした?」 「コマンド、欲しい……」  オーナーが言うなら何でもする、そんな気持ちが溢れてしまいそう。 「じゃあウル。『こっちを見ろ(Look)』」  恥ずかしくて逸らしてた視線を『コマンド』で操られるのが堪らなく気持ち良い。目を合わせながらずるりと脱がされた下着にはもう糸が引くくらい体液が溢れてて恥ずかしいのにそれすら気持ち良い。  Domの、オーナーの『コマンド』1つでこうなってしまうんだって見てもらいたい。  視線を合わせたままキスされるともうイッてしまいそうになる。近すぎてほとんど見えない視界の中、オーナーの夕焼け色の瞳が瞬いた。 「あぁ……っ!」  男としての機能はないけど勃ち上がるペニスから溢れた体液を、同じくトロトロと受け入れる準備を始めてる後孔にぬるりと広げられる。ちょっと触られただけなのに敏感すぎるそこはオーナーの1つ1つの動きに過剰なくらい反応してしまう。だから指なんて入れられた日には―― 「ひ、ああぁーーーッ」  びくん、と体が跳ね上がって透明な体液がねっとりと吐き出されてしまった。  後孔にオーナーの指が入ってるのがぎゅう、って締め付けた所為でダイレクトに伝わって来てもう一度体がびく、っと跳ねた。 「まだ指1本入れただけだぞ」  またクスクスと笑うオーナーが息の整わない僕の中に入ったままの指をゆっくりと動かす。 「あ、や、待って……!」  気持ち良すぎて勝手に足が開いて、待って、なんて言いながらもっともっと、と勝手に腰を揺らしてしまう。 「『動くな(Stay)』」 「んん……、だって、ぁ……っ」  『コマンド』を聞くだけで体が昂って、でもDomからの命令は絶対だから。枕を握りしめて動いてしまいそうになる体を何とか止めるけど、次の動きを期待して見上げる僕を少しだけ楽しそうに見下ろしてくるオーナーは意地悪だ。なのにその視線だけできゅうきゅうとオーナーの指を締め付けてしまった。  まだ1本なのに苦しい。でも早くオーナーのが欲しい。 「お、オーナー……」  欲しい、って小さく呟いたけどその声はオーナーの唇に吸い込まれた。 「ぁ、ン……」  ちゅ、ちゅむ、なんて唇同士がくっついては離れる音を立てながら何度も角度を変えてキスが降って来て。ずるり、と後ろから指が抜かれる感覚にまたびくん、と飛び上がったけどどうして抜いてしまうのか、って文句を言ってやろうと思った僕の目に飛び込んできたのは。  男らしくバサッと上の服を脱いだオーナーの手に握られている―― 「どどどど、どこに隠し持ってたの!!!?」  いつぞやバレた大人のオモチャだった。 「枕の下」 「気付かなかった!」  気持ちいいとかそんな物全部吹っ飛ぶくらいの衝撃だ。まさかオーナーがどこにやったのかわからなかったオモチャがずっと枕の下にあったとは!  そしてそれを取り出したって事はまさか……。 「使うの……?」 「自分で使うつもりだったんだろ?」  そうですけど!自分でやるのと人にやられるのは違うというか!……ま、まあ興味がないわけじゃないですけど?  もう香油なんて塗らなくても充分濡れてると思うけど、それでも大人のオモチャ(初心者用)にとろりと垂らされた香油の良い香りが漂う。  何だかオーナーと大人のオモチャの組み合わせは宜しくない。とっても宜しくないよ!目のやり場に困ってウロウロと視線を彷徨わせてるうちにえらくぬるついた何かが後孔に当てられた。何かって大人のオモチャ(初心者用)ですけどねー! 「ウル『伏せて尻を上げろ(Crawl)』」  途端に体がビク、っと反応して体をうつ伏せにした。でもそこからお尻だけ上げるのが恥ずかしくて躊躇してしまう。  でも知ってる。『コマンド』を守ったらもっと気持ち良くなれる。きっと褒めてもらえる。恥ずかしくて頭が爆発しそうになるけど、僕はゆっくりオーナーに向けてお尻を上げた。  そのお尻に固い手の平が当たって一撫でした後、ちゅ、ってキスされてまた思考が一気に快楽に持って行かれる。 「『良い子だ(Goodboy)』」  何回かちゅ、ちゅ、ってリップ音がした後で褒められて体に電気が走ったみたいになった。 「ぁ……ッ」  はくはくと空気を取り込もうと開いた唇から涎が滴ったけど拭う力もないくらいオーナーの『コマンド』が気持ちいい。もっと言って、もっと色んな事して、それからもっと奥の方をぐちゃぐちゃにして。  早く欲しい。  早く。  でも入って来たのは勿論オーナー自身じゃなくて先が少しだけ尖ったオモチャだった。先の方は細くて痛みはない。少しずつ太くなっていって、あ、ちょっと苦しいかも、と思った所で動きが止まった。 「は、あ……っ」 「まだこのくらいか」 「や、まだ入る……!」  多分オーナーが入るには全然足りないんだと思う。だから必死に首を振ってもっと奥まで入れて欲しい、って懇願したんだけど。   「無理矢理やって傷でもついたらどうする。言っただろ。焦らなくても俺はお前を逃がさないから」 「ひあぁぁ……!」  言ってる事は傍目にはちょっと重たいかも知れないんだけど、僕にとっては夢みたいに嬉しい言葉。ただ言ったと同時にぬるん、っとオモチャを引き抜かれた所為で返事の代わりに悲鳴みたいな声が出てしまった。しかもそのまま出し入れを繰り返すから腰がガクガクと揺れてしまう。 「あ、ぁ、あんッ、き、きもち、い……気持ちいぃ……!」  でも足りない。こんなオモチャじゃ嫌だ。オーナーが欲しい。僕の事好きだって言う割にどうしてオーナーは全部脱いでくれないんだろう。  そう思ったのが全部口に出てたみたい。  背中にずっしりした重みを感じて、は、と獣じみた吐息が首筋にかかる。お尻のオモチャを動かしてるのとは反対の手で僕の手をきつく掴んで、首輪近くの肌に歯を立てられた。 「言っておくが、俺がもっと欲望に忠実な人間だったらとっくにこの首輪外してお前を(つがい)にしてるからな……!」 「あ、あっ!」  がり、と強く噛まれた痛みが快楽に置き換えられてまた透明な体液がたらたらと流れる。 「で、でも僕ばっかり……やだ……!ああッ!」  今度はさっきと反対側を噛まれて体をゾクゾクと快感が駆け巡った。力が入らなくなって横に倒れそうになる下半身を抱えなおしたオーナーがオモチャをゆっくりと引き抜く、それだけでももう気持ちが良すぎて閉じられない口から流れる唾液が枕に染み込んでいく。  これは洗濯しないと、なんて考えられたのは一瞬だけ。背後からベルトを外す音がして、ぎゅ、っと足を閉じさせられた僕の股の間に何かすごく硬くて熱い何かがある。 (これって、オーナーの……!)  どくどくと脈打つ熱い塊。僕の股に挟まってるそれは確かに少し慣らしたくらいじゃ絶対お尻になんて入らない。  少しだけ慄く気持ちと、でも僕の体でオーナーがこんなに興奮してくれてるんだって喜びとが同時にやって来て胸がきゅう、ってなった。 「今はこれで我慢しろ」 「ん、あっ、あっ……」  精子は作れないからただのお飾りの小さめな睾丸を押しつぶすようにしながら、オーナーのペニスがゆっくり動き出す。僕のお尻やらこっちも排泄以外はお飾りなペニスからどろ、っと溢れる体液の滑りを借りてぬるり、ぬるり、と動いていたそれが徐々に動きを早める頃には僕も合わせて腰を動かしてしまっていた。 「ひ、あぁっ、あっ、んぅ……!」  肌がぶつかる音とかグチュグチュと耳を塞ぎたいくらいの水音だとか、その合間に何度も掠れた声で好きだって呟いて僕の肌にキスしたり噛みついたりしてくるオーナーの手を僕も夢中で握りしめて。 「あっ、やぅ、んあぁぁぁっ!!」    オーナーの太いペニスから白濁が吐き出されると同時に僕も透明な体液を吐き出していた。  ◇  夜中にふと目を覚ました僕は外に見える大きな月をしばらくぼー、っと眺めてから隣で寝息を立てているオーナーの顔を見た。  あの直後からの記憶がないからきっと僕はまた気絶しちゃったんだろうな。体がぬるぬるする事もないし、服もちゃんと着てる。心配だったベッドは何をどうしたのか綺麗になってて首を傾げるしかないんだけど。  オーナーは僕を番にしたいような事を言ってくれた。  僕にそんな価値あるかな、なんて考えたけど自分ではわからない。ただ僕はずっとオーナーが支えだった。前世から大好きだった推しだ。嫌いになる筈がない。だからこそ僕が魔王になった時巻き込むわけにいかない。  ラーグが急に公爵家に帰って来いって言った理由もわからないし、僕が魔王だって確信してるような王太子の事もわからない。だって物語にそんな展開はなかった。強制力が僕を公爵家に戻して改めてそこからやり直そうとしてるのか、それとも他に何かあるのか全然わかんないけどだけど1つだけ言える事はある。  オーナーの厚い胸板に顔を押し付けて改めて誓う。 (僕は絶対魔王になんてならない。物語で幸せになれなかった(ウル)を幸せにするんだ!)  

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