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③
『初恋♥守護騎士様 』
「あは、あははは……」
ショックを軽く通り越し、精神的にもれなく大ダメージを食らったオレは。
あれからアリサちゃんと正式に男女のお別れをした後、何を血迷ったのか奇行へと走り。
気付けばゲームショップへと猛ダッシュ、そして見事コイツを手にし…
本能のまま、自宅へと帰還していたのだった。
現在、巷のヲタク女子達を虜にしているという人気の乙女ゲーム『初恋♥守護騎士様 』。
大まかなあらすじは、異世界グローシアに飛ばされた少女が神子という特殊な存在となり、世界の危機を救う…という王道なもの。
最終的には神子である少女を魔族の王から守るべく、女王が女神の啓示のもと選定した、守護騎士達と苦楽を共にし…延いてはその騎士と恋人同士となる事を目的とした、女性向け恋愛シュミレーション───…といった感じで。
説明書きにもそう、記されていた。
パッケージを裏返せば、イケメン騎士達との甘いイベントシーンが簡単にも掲載されており…
オレはソレらを茫然と眺めながら。
冷ややかに、笑うしかなかったのである。
中でも一番人気なのは、アリサちゃん(元カノ)イチオシの最主要キャラクターである“ルーファス様”みたいで…。
発売から時が経ってもなお、勢いは衰えることはなく。今やその人気ぶりはゲームに留まらず、アニメ化やキャラクター声優によるイメージソングにCD化。多種多様なキャラグッズに至るまでと、幅広く網羅し。
関連商品は、売れに売れてるんだとか…。
だからと言って、この現実をすんなり受け入れられるワケがなく…。オレはルーファス様が甘く微笑むゲームソフトを手に、放心状態に陥る始末。
嫌でも思い出してしまうのは、アリサちゃんと過ごした日々のこと。
特別彼女に対する想いや、独占欲が強いかと問われれば…恋愛に、そこまで熱くなるような性格でもなかったんだけど。
改めて考えればそれなりに、アリサちゃんを大事に思ってたんだなぁと…今更ながら思い知らされた。
まあ、気付いたところで手遅れなんだけどね…。
だって彼女はもう…この、二次元キャラクターである“ルーファス様”に。心奪われてしまったんだし。
あは、あはははは…────ぐすん…
「どうすんだよぉ、これから…」
嫉妬すべき相手が二次元の住人なだけに。
やり場のない思いだけが燻り、空回る。
そうしてグルグル回る負の連鎖から抜け出せず、いつまでもウジウジしていれば。不幸とは、そういう時に限って立て続けに起こるものなんだと…
嫌でも思い知らさせられるのだった。
「はっはい、もしもし───…」
突然鳴り出した携帯電話の着信音に、ドキリとして。
慌てて画面を確認すれば…先日内定を貰った会社名が表示されており。
不安に駆られながらも、恐る恐る電話に出てみると───…
『誠に申し訳ありません、今回の採用に手違いがございまして────』
……………。
電話が切れた後、部屋にはなんとも重苦しい沈黙が充満し。先だっての失恋で壊れかけてた魂は、既にもぬけの殻。
途方もない喪失感で以て、儚く崩れ堕ちる。
ヲワッタ…オレの人生、たった今ヲワッタヨ?
ようやくオレにもツキが回り始め、順風満帆…とまではいかないかもけど。アリサちゃんと一緒なら、きっと幸せな家庭を築けるだろう───…だなんて。
甘っちょろい未来を想像し、地味に浮かれてた矢先に。
オレの人生は今日一日にして、
彼女と就職先、両方を一気に失うこととなる。
「うぅ……なんだよチキショ~!!」
コレも全部お前の所為か!!
手の中のナイト様を、恨めしげに睨み付けてみても。
二次元キャラは優しくオレに微笑むばかりで。
どう足掻こうとも、気分が晴れることは無い。
「こんなのアリかよぉ…」
神様のバカ~!!…と、ぐずぐず泣き叫ぶ様はホント情けなく。こんな姿をアリサちゃんに見せようもんなら、それこそドン引きだろうし…。
そりゃフラれて当然だよなって自嘲しては、滝の如く涙を流す。
仕方ないじゃんか。
人生最大の挫折を、一度にふたつも食らったのだから。
自分でも意外なほどショックだったみたいだ…。
「もおっ…やってられるか~!!」
なんかもう色々辛すぎて、全てがどうでもよくなり。天井に向かって絶叫するオレは。
何を血迷ったのか、次には手の中のゲームソフトを…
ビリビリと開封していた。
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